都内のほとんどの自治体に土地開発公社が存在している。
土地開発公社は、地方自治体が道路や公園などをつくるために必要な土地を自治体にかわって取得するために設立された外郭団体の一種である(自治体が100%出資する特別法人)。東京都内では、江戸川区や八王子市などを除き、ほとんどすべての自治体に今なお存在している。
公共用地は、各自治体が直に購入する場合もあるが、実際には、その多くは土地開発公社経由で購入されている。
つまり、杉並区に土地を売る民間人は、杉並区にではなく、正式には杉並区土地開発公社に土地を売るのである。そして、杉並区は、この土地開発公社から土地を買う。わざわざトンネル機関を仲介させているのである。
このような役割を担ってきた杉並区土地開発公社は、設立以来平成17年度までにおいて117件の用地を購入してきた。その費用は383億円余で、これに支払った利子は30億円余となっている。
近年でいえば、区が直接的に土地を購入した例として、旧日本興業銀行柏の宮グラウンド(現・杉並区立柏の宮公園)が存在しているが、その他は、すべて土地開発公社経由で購入されている土地ばかりである。
●土地開発公社の問題点
以下で詳しく述べるが、考察の視点は、次の5点に集約できる。
(1)
議会の正式な審議や議決を得る前に、ほとんどの区民の知らないところで、いとも簡単に高額な用地を買収することができる「抜け穴的手段」として、土地開発公社が存在している。(用地購入に当たって、公社が一種のトンネル機関となっている)
(2)
自治体が完全なる債務保証をしているので、無責任体質に陥りがちである。
(杉並区の場合も、長らく土地開発公社に対する区の債務保証額は200億円と高額に設定されてきた。保証限度額までは、公社の判断で自由に用地購入ができる。その後、主張が実り、平成19年度より50億円に減額されたが、依然として高水準であることに変わりはない。)
(3)
土地開発公社の責任者は、自治体の管理職で占められており、評議員も議員で占められているため、実質的には自治体と一体の組織となっている(外部チェックが非常に働きにくい、透明性・公開性も議会審議以上に閉鎖的)
(4)
バブル期とは異なり、「公社が用地を先行取得しておく」という考え方自体が不要になっているのに、まだ組織を温存させている(その必要があれば、その都度、オープンに議会の議決をとればよいことである)
(5)
土地開発公社を設置したことのない東京都や江戸川区、土地開発公社を廃止した八王子市においては、何ら問題は発生していない。
●土地開発公社の存在理由
多くの自治体が、土地開発公社のようなトンネル機関を維持している理由は、何だろうか。
端的に言ってしまえば、それは議会(本会議)の許可を受けずに、簡単に土地を買ってしまえることにある。つまり、取得段階において区民に察知されにくいので、価格や取得の是非について文句を言われる機会が少ないのである。
ここに大きな落とし穴がある。さらに、自治体が土地開発公社に対して債務保証を行っているから始末が悪い(包括的債務負担行為)。
土地資本主義とまで言われた日本社会において、日本経済は、土地の信用が大きくなっていくことでその規模を発展させてきたと言える。バブル期までは、GDP(国内総生産)の伸びと同様に、土地の価格はどんどん上昇していった。
しかし、一方で、バブル崩壊以降、さまざまな問題が顕在化し、日本社会が深い谷に突き落とされた。このことを忘れてはならない。
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