杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし 議員一年生の議会見聞録(その4) 1999



区長が変わって
どうなっているのか? その現実


 ●あまりに多い矛盾。これが国会なら、一面トップ扱いだったはず・・・
  目次
  パフォーマンス上手の新区長
    1.いきなり選挙前と違う発言をした区長
     2.あれ? また借金するんですか?!
     3.実は、黒塗りの公用車を使っている区長
     4.実は、公会堂を改築するとも言っている区長 
     5.区長給与のカットのウラ話
  区長!それでも応援していますから、頑張ってください!!

 元国会議員でもある新区長(41)のパフォーマンスは冴えをみせていますが、驚いたことに、

 (1)当選後、明確な説明もないまま、選挙前の発言と180度異なる発言をしていること、
 (2)都知事が実力本位で21人抜きの若手大抜擢をしたのとは対照的に、新区長は従来型の年功序列人事を採用してしまったこと・・・

 などなど、指摘しておかなければならないことも、たくさんあります(2については、すでに(その3)で指摘しています)。

 区の話題は、国会とは違って、TVやニュースで取り上げられることも少ないため、今回は、新区長の行政運営について、中立的な立場から「知られざる実態」をお伝えしたいと思います。



 パフォーマンス上手の新区長


 最近、「区長が変わって、良くなってるでしょ?」と聞かれることが多い。

 区長のパフォーマンスが効果を出しているようである。与党の立場を明確にしているのは、保守系無所属の会派(杉並フロンティア)だけであるが、これまでのところ、区長が議会に提出した人事や議案は、すべて可決されている(=オール与党)。

 もっとも、それだけ区長が闘う姿勢をみせていないから、こういうことになるのであるが(実際に闘っている石原都知事は、オール与党の議会とも衝突していましたよね)。

 それにしても、新区長は、さすが元国会議員である。歴代の役人出身区長より若く、「華」があるため、それが杉並区役所のイメージ向上につながっていることは間違いない。

 実際にも、新区長は、就任早々、給料を削減したのに始まって、区長交際費の100%公開を明言したり、助役2人制を廃止したり、「21世紀ビジョン」をつくる条例を提案したり、黒塗りの公用車による送迎をやめたり・・・などなど、なかなかのパフォーマンス上手でもある。政治家としては、なかなかのヤリ手だといえる。

 だが、冷静に判断して、そのパフォーマンスは、どちらかというと、「有権者ウケ」を狙ったものが多い。新区長のパフォーマンスは、石原慎太郎都知事や、浅野史郎宮城県知事のように、“敵をつくることになろうと、ハッキリ物事を言う”という種類のそれとは明らかに異なっている。

 以下、5項目に分けて、検証していきたい。



(1)いきなり選挙前と違う発言をした区長

 
  まず、驚いたのは、区長就任に当たっての所信表明演説だった。

 新区長は、選挙前、現職の区長を痛烈に批判し、当選された。そして、「いつしか杉並はかつての光を失い、どの調査をみても杉並のくらしの格付けは最下位になってしまった」と主張して、現状改革を訴えていた人でもある。

 その人が、突然「杉並区は都内でも有数の住みよい地域だ」と所信表明演説で発言し、いきなり従来の主張を180度変えてしまったのである。

 私はこれを聴いてビックリしてしまった。選挙前に配られていたチラシによると、財政赤字や福祉・環境・教育・まちづくり・杉並病対策・・・新区長は、これらの対策の遅れを指摘し、杉並を「格付け最下位」と断言していたのだ。

 なのに、それからたった1ヶ月ほどで、急に暮らし向きが良くなり、いきなり格付けが急上昇したとでもいうのだろうか? 常識的な国語力しかもたない私には、何を言っているのやら、さっぱり理解できなかった。

 もちろん、新区長からは、具体的に、どこがどう住み良い地域なのか、まったく説明がなかった。それもそうだ。選挙前後で発言が矛盾しているのだから、合理的に説明できるわけがない。

 おそらく役人や議会の多数派に配慮した発言なのだろうが、選挙前に「最下位」などと手厳しく発言してしまったので、その報復が怖いのだろう。でなければ、こんな媚びるような発言はしないはずだ。新区長が試合後(選挙後)は「ノーサイド」といって周囲に配慮したい気持ちもお察しするが、選挙前に言っていることとあまりに違うことを言うので、とにかく驚いてしまった。



(2)あれ? また借金するんですか?!



  もちろん、区長がただ周囲に気配りしているだけのことなら、私もそんなに問題視しない。しかし、これがただの「気配り」だけでなく、予算にまで影響を与えている点が、問題なのである。

 6月末に新区長が誕生して初めての補正予算が成立した。区長は、ホームページの開設に予算をつけたこと、新たな基本構想(通称21世紀ビジョン)をつくることを掲げ、従来にない「独自色」を説明した。

 しかし、よく調べてみると、これは、既に前区長時代に検討や計画があったことで、それを受け継いだだけに過ぎず、とくに目新しい施策でもなんでもなかった。

 その一方で、区長は、財政再建を意識し、必要になところに予算をつけたとも発言しているのだが・・・
 だが、それもウソだった。なんと、驚くことに、今回、税収が不足したことを理由に、また安易に減税補てん債の発行(=16億円の借金)をするというのである。

 これはおかしい。選挙前に配っていたチラシをみても、減税補てん債の発行による赤字財政を徹底的に批判して当選してきたのが新区長なのだ。

 それが、当選後、すぐに作った補正予算で、さっそく減税補てん債を発行し、借金を増やすというのだから、ツジツマがあわない。

 区長は、自分の給与の削減をアピールすることで、この問題を巧みに隠しているが、事実は事実として、しっかり確認しておく必要がある。

 しかも、こうした矛盾について、区長は、その方針の変更を明確に説明していない。議会でも、努力しても、今回はどうしても借金しなければならないんだと発言するのがやっとで、区長はそれ以上、具体的な説明をすることができなかった。

 もちろん、ハコモノ優先の予算は相変わらずで、来年スタートの介護保険も不安が消えないままの状態であることは、言うまでもない。

 私は議会で、この件についても、はっきりと区長に指摘しておいたところだが、わずかの給料を削減したくらいで、新たに16億円も起債(借金)した責任をゴマかされては、たまったものではない。国も都もすでに破産寸前の状態にあるなかで、同じく区も危険水域に入っていることは、新区長が選挙前に、繰り返し訴えていたことなのだ。

 ちなみに、新区長は、4年前の区長選の時(国会議員のころ)は、前の区長を応援していたと伝えられている。改めて、お伺いしたい。それでは、今回、前区長を敵に回してでも、区長選に立候補したのは、いったい何故だったのだろうか?

 それは、新区長自らが所信表明演説のなかで述べているように、「時には自らが犠牲になってでも、この地域を住みやすく安心して暮らせるものとしなければならない」からではなかったのだろうか?

 自分よりも後生を犠牲にした予算を組んでおいて、それはないだろう。今が良ければ、急場をしのげれば、それで良いというのか? もし、そうなら、前の区長といったい何が変わるというのだろうか?

 もちろん、行政には継続性という重要な考え方もある。外部から見ているときと、区長(行政の執行者)となったときとでは、自ずと方針も変わってくるだろう。なにも、それをやみくもに否定するつもりはない。

 ただ、考えが変わったなら、変わったで、明確に「根拠」を挙げて、それをわかるように説明すべきなのだ。

 杉並区の話題など、世間では大きなニュースになら ないが、これが国や都だったら、一面トップ級の記事になっていたことだろう。ことの是非はともかくとしても、選挙前と言っていることが全然違うのだから。



(3)実は、黒塗りの公用車を使っている区長


 区長には、黒塗りの公用車の利用が認められている。

 ただ、これがあまり世間で評判の良くないことを察知したのか、新区長は、

 公用車について、「時間が管理され、どんどん自由な、みなさんと接する時間がなくなるので利用しない。秘書課は特に嫌がっていると思う。いま何をしているかが分からない」

 と言って、区民の前では、これを利用していないかのようなことを平然と言っている(新聞報道より引用)。 

 ところが、以前、私とみよし(我が一人会派・唯一の事務協力者)は、区長がこれを利用しているのをこの目でハッキリと目撃している。このとき、区長は私に対して「今日はこれから会合に出るので・・・」と弁解していた。なんとも、スバラシイ二枚舌である。

 おそらく、こう指摘すると、今度は出退勤に使っていないと弁明するつもりだろう。しかし、私はもっと基本的な部分で異議を感じているのだ。


 というのも、一国の総理大臣と同様に、区長というのは「一城の主」なのである。

 新区長は、居場所を不明にしておくことについて、何とも思っていないようだが、「一城の主」である以上、どこで何をしているか判らないでは済まされない職務のはずである。

 だいたい、災害などの緊急事態が発生したら、いったいどうするのだろうか? 区の総責任者である区長がつかまらない、では済まないはずだろう。

 新区長は、ヒラの一議員のときとは、立場が全然違うということをまるで理解していないようだ。

 区長は、行政の執行者であり、権力の執行者である。一議員のときとは、まるで立場が違う。給料は全額もらっても良いし、どんどん公用車を使っても良いから、何よりも区のことを第一に考えて、フルパワー・フルタイムで職責を全うすることを優先すべきなのだ。

 区長は、黒塗りの公用車を使わないなどというパフォーマンスを優先するあまり、職責の重みを忘れてしまっている。この場を借りて、改めて区長の姿勢を質しておきたいと思う。


(4)実は、公会堂を改築するとも言っている区長


 ちなみに、二枚舌といえば、杉並公会堂の改築問題についても、そうである。

 この問題について、区長は世間では「凍結した」と言い張り、財政再建に配慮し、これは平成13年度以降の計画として考えると説明している。つまり、財政状況が厳しい以上、公会堂の改築は難しい、ということに主張の中心があったわけである。新聞報道もまた同じような書き方をしていた。

 だが、議会では、もう少し踏み込んだ答弁もしていて、将来的には「これまでの方針のとおり、改築をし、良いものを建てていかなければなりません」という表現もしているのだ。区長は、杉並のシンボルとなるような新公会堂の建設要望を尊重していくというのである。

 なんのことはない。ハコモノを造りたくてたまらない人たちに媚びているのである。

 だが、これは問題だ。多くの区民は、もう豪華なハコモノなんか求めていない。豪華な公会堂を建てたところで、いま区が抱えている問題が解決するわけではないのだ。

 もう区民が毎日使うわけでもない施設の建設を推進するのはやめて、少子高齢化(子育て・介護)や、地域環境の改善を優先した取り組みをしていくべきではないのか。3K(教育・介護・環境)に予算を配分するために、無駄な支出のカットや財政再建を果たすと言っていたのは、誰だったのだろうか? 



(5)区長給与カットのウラ話



 区長交際費を100%公開するという。これも一般にはあまり知られていないことだが、そもそも区長交際費の内訳は、以前より区民に公開していた。

 これを新区長になって初めて公開したかのような印象で宣伝するのは、少々言い過ぎた話で、パフォーマンス的な要素が強い発言である。

 さらに、新区長の給与の削減についても、同様のパフォーマンスがあったということが判明している。

 なんでも給与の削減については、6月末で退任した他の区幹部(助役、収入役、教育長)も、新区長が削減すると言った時に、これに同調すると申し出ていたのだそうだ。ところが、なんと区長はこれを断ったのだという(新聞報道によれば、区長自らこれを認めている)。

 これでは自分だけが、格好の良いスタンド・プレーをしたかったと思われても仕方がない。

 財政再建に真剣に取り組む姿勢を訴えたかったようだが、だったら、他の幹部が申し出た給料返上を断る理由など、どこにもなかったはずである(なお、その後、時期を変えて、他の区幹部についても、給与の削減が実現した。なぜ、最初から認めなかったのだろうか?)。

 政治にはパフォーマンスがつきものだ。だが、こうした現実をまざまざと見せつけられるにつけ、無党派議員としては、パフォーマンスばかりに目を奪われることなく、厳しい目でチェックをしていく必要性を感じているところでもある。

 これから、区長がかねて公約していたバランス・シートも出てくる。しかし、これとて、バランス・シートをどのように活用するかが重要であって、作成そのものが重要なわけではない。今後、このあたりも、しっかり注視していきたいと思う。

 それにしても、巨大な役人組織というのは、難攻不落である。おそらく、新区長も、敵は少ない方が行政運営もやりやすいと感じたのだろう。一時はアドリブが目立った新区長だったが、そのうち、すっかり役人答弁が板につくようになってしまった。前途は多難である。

 かつて区長について「早くも方針転換?」と書いた新聞があった。新区長は明らかに「役人のペースに飲まれてしまっている」状況にある(記事中の表現)。

 議会でも、区長に姿勢を問いただしているのに、区長は黙ったままで、他の役人がおかまいなしに答弁するということもあった。

 マスコミ報道が少ないので、多くの区民の方には「知られざる実態」となってしまっているが、これも国会なら、一面トップの扱いになっていたことだろう。

 区長が、選挙前に訴えていた「いつしか、杉並はかつての光を失い・・・」というのは、今では区長ご本人のこととなってしまっている。国会議員のころの区長は、もっと勢いがあったではないか。若さを売りにしていたのに、いったい、どうしてしまったのだろうか・・・                 



区長!それでも応援していますから、頑張ってください!!



 本会議場での私の議席は、区長や助役の真ん前の席である。そのため、私は本会議中にイヤというほど区長や助役の顔を拝んでしまうことになる。

 本会議の開会中、よくこんなことがあった。区長が自分の言葉で話そうとすると、助役が、しかめっ面をするという場面である。区長も、相当苦しい立場にあるのだろう。大いに期待していた私としては、本当に複雑な気分だった。

 だから、区長のお気持ちはお察しする。ただ、議員としては、「なぁなぁ」の形で済ませて良いというものでもないので、あえて書かせていただくが・・・

 かの青島幸男氏(前都知事)でさえ、最初から周囲に媚びたりはしなかったはずだ。東京都の石原慎太郎都知事は、今のところ、役人とも議会とも戦う姿勢をみせているが、大いに見習って欲しいと思う。

 だいたい、外では、有権者ウケするパフォーマンスをしているのに、内では議会ウケや役人ウケをする行動や発言をするというのは、姑息なことだ。

 それとも、区長の言う試合後(選挙後)の「ノーサイドの精神」というのは、「なれあい」や、談合ということを指していたのだろうか?

 政治家にとって、発言や行動・思想信条が首尾一貫しているということは、極めて重要なことである。もちろん、立場や時代が変われば、考え方も変わるということは認めなければならないが、その場合にしても、政治家はそれを明確に説明していく責任があるはずだ。

 フェアにみて、新区長の発言や財政再建の姿勢は、明確な説明もないままに、大きく後退してしまった。

 ましてや、簡単に前言を撤回するというのは、まったく理解できないことである。私は区長に期待している者の一人だが、有権者ウケするパフォーマンスでお茶を濁している区長の態度からは、伝わってくるものがない。私は、議会でも、この矛盾を追及しているが、今後も区長の提案に何でも賛成したり、何でも反対したりという極端にはしることなく、無党派の立場で公正にチェックし、発言を続けていきたいと思っている。

 そういえば、定例会の前に、私はエレベーターのなかで、区長に偶然お会いしたことがあった。そのとき、区長からは「厳しい質問」を期待しているようなお言葉をいただいている。私はそのご要望にお応えして、本会議でもあえて厳しい質問・発言をしたところである。

 もちろん、それも、新区長に強い期待があるからこそ、あえて厳しい質問・発言をしたのである。ここで私が書いたことも、揚げ足取りをするために書いたつもりは全くない。議員として、当たり前の「行政のチェック役」を務めたいと思えばこそなのである。

 議会・議員は、行政・役人と「なれあい」になってはならないはずだ。かりに、新区長の方針を支持するとしても、議員はすべての議案に無条件で賛成したり、なんでも「異議なし」で終わらせてはいけないと思っている。

 幸い、区長も区長一年生、私も議員一年生だ。僭越ながら、私も区長とともに成長していきたいと思っている。だから、今後とも、うるさいヤツだと思わず、区長にはしっかり対応していただきたいと願っている。

 なんといっても、行政の執行者は区長である。区の実績は、もっぱら区長の実績になっていくわけであり、区長は議員からの厳しい質問や、建設的な意見は、大いに喜ぶべきなのだから。


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