杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2000 7月A No.58

区の用地買収によって、歴史的文化財が破壊される?!

区の矛盾した説明を追及


 
 日本興業銀行・柏の宮グラウンド(杉並区浜田山)を杉並区が買収する件については、すでに取り上げ、その際、問題点や私の考え方などをお伝えしているところです(詳細は2000年2月第4週報告へ)。

 買収の全体像がみえてくるのは今年度末の予定になっていますが、今回、都市計画事業として認可されたこともあり、いよいよ公園化に向けた具体的な動きがスタートすることになっています(7月1日には区民参加のもとで、どのような公園にするか話し合いを進めていく「集う会」が混乱しながらもスタートしています)。

 いろいろ問題はあるのですが、今日はとくに敷地内に存在している歴史的文化財が撤去されてしまう方針であることについて、その問題点を指摘しながら、これをどうするべきか考えていきたいと思います。


 なぜ、区は文化財の撤去を求めているのか?

  現在、興銀の柏の宮グラウンド敷地内には小祠(俗にいうお稲荷さん)が存在しています。私は文化財については全くの門外漢で、ほとんど知識を持っていないのですが、他の議員のお話のなかで、この話題を知り、さっそく調べてみました。すると、この「柏の宮」というこの地の呼び名は、この小祠に由来するものであり、地元のお年寄りによれば、長く大切にされてきた小祠だということがわかりました。また、地元でも、存続を希望している声が強いこともわかりました。

 ここで問題になっているのは、地元の意向を聴く前から、杉並区が興銀に対して、これを完全に撤去し、平地にしてから区に引き渡すよう求めていたという点です。この国には、文化財保護法があります。また、杉並区にも文化財保護条例があります。行政が率先して、地元で大切にされている文化財を取り壊してしまうというのは、どういうことなのか?・・・地元でも、疑問をもつ声があがり、存続を求める署名活動が行われていました。

 こうした経緯があることを知ったこともあり、私は調査した上で、さっそく先の本議会で話題にしました。そこで区は、憲法上の制約から区が所有することは難しく、撤去以外には選択肢がない・・・という答弁を返してきました。


 文化財の所有は合憲。

  区が指摘した憲法上の制約とは、憲法89条のことを差します。

日本国憲法第89条
 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益、若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

 今回の件でいえば、小祠といえども神道に関係しており、この維持管理に公金を支出したり、区立公園の一角にその敷地を提供することは、憲法違反になるからダメだという説明をしてきたのです。

 ところが、これは明らかに話題にすりかえであって、まったく説得力がありません。
たとえば、墨田区にある東京都立「ハローワーク墨田」には、実際に敷地内に小祠があり、ハローワークの予算で維持・管理されています。実際にここの担当者に話を聴いてみると、地元住民の協力を得ながら適切に維持管理しており、お賽銭やハローワークの予算内で、それを賄っていると言っていました。かつては、これを問題視した人もいたようですが、地元の支持を受け、現在では誰も異論を挟む人はいないようです。

 このほか、墨田区内の区立公園のなかには、小祠が存在している公園があります(下記参照)。いずれも地元の人が長く大切にしてきた文化財であり、「
習俗」として、行政が所有することについても、合憲と判断されているのです。

 
※敷地内に文化財としての小祠が存在する公有地の例
  ・ハローワーク墨田(東京都立墨田公共職業安定所) 墨田区東駒形4丁目
  ・松坂公園(墨田区立公園)墨田区両国3丁目
  ・安田公園(墨田区立公園)墨田区横綱町



 区の説明は矛盾だらけだ!

 同じ23区内で、このような事例があるにもかかわらず、
杉並区だけが妙な理屈を出し、率先して文化財を撤去する方針を打ち出すのは、理解に苦しむことで、法や条例に定められている文化財保護の精神に反するものです。

 教育委員会は、平成8年に「文化財シリーズ41 杉並の小祠」という書物を発行しています。このなかには、小祠が文化財的に価値があるもので、ことに民間普通人の築いてきた文化を実証するものとして高い価値があるとの記述があります。そして、文化財保護法や、区の文化財保護条例によれば、文化財が郷土の歴史・文化等の正しい理解のため欠くことのできないものであることを唱い、文化財の保護に対する行政の努力義務が課されているのです。

 それにしても、公園整備を担当する土木部が撤去方針を押し進めるのはわからないでもありませんが、文化財保護を推進するよう義務づけられている教育委員会が、この状況を黙っていたのは、なぜなのでしょう? この文化財は、興銀グランドを区が買収するからこそ、撤去される話なのです。
この文化財を撤去する必要がないことを代弁すべきところが押し黙っているのは、およそ理解できないことであり、「何か他に押し黙っていなければならない理由があるのではないか?」と勘ぐってしまいます。

 なお、区の今回の説明や解釈でいけば、たとえば「私学助成」といったものも、憲法違反の疑いがあるので助成することができない、ということになってしまいます(実際に違憲との学説もあります)。ただ、それでは現実的でないという判断から、行政も「解釈」でそれをすり抜けて助成を行っているわけです。

 このように、
私学助成が違憲でないと解釈で判断しているのに、文化財である小祠の所有だけを違憲とする解釈は、かなり無理のある判断です。同じ憲法89条についての争点でもあり、「両方ともに合憲」あるいは「両方ともに違憲」と判断しなければ、整合性がとれません。


 所有し維持管理することは可能


 つぎに、杉並区は、かりに小祠の所有についての障害が取り除かれても、「維持管理することのできる人がいない」というような指摘をしています(区民の文書質問に対する区長の文書回答)。たしかに、財政難もあるので、文化財を維持する経費が惜しいという判断もあるでしょう。しかし、維持管理のあり方について、これまで地元に打診したことは一切なく、これまた区の手前勝手な理由といえます。そこまでして文化財を破壊したいのは、いったい何故なのでしょう?

 すでに、杉並区内には、郵政省のグランドが存在していますが、その敷地内にも、同じように小祠が存在しています。これは所有こそ郵政省だそうですが、郵政省は管理しておらず、地元の方によって適切に維持・管理されているとのお話です。所有と管理を分離させることは、別に不思議な話ではなく、文化財においては、よくある話です。また、文化財ではありませんが、地域の花壇の管理などは、区民の有志によって維持管理されているところがかなりあります。これも、とくに問題は起こっておらず、適切に管理されています。

区民のよって公共の花壇が管理されている例(いずれも杉並区)
 三谷公園・道灌橋公園・杉並第十小学校蚕糸の森公園南側コミュニティ道路・東二公園の一部・今川一丁目公園の一部
 

 このように、区が直接的に手を出さなくとも、意識のある近隣住民の協力で維持管理していくことは、じゅうぶんに可能なのです。現在、興銀グランド内に存在する小祠についても、維持管理に協力する用意のある人は存在するわけで、それを探してもいない段階から、維持管理する人がいないなどという理由で文化財を撤去するというのも、ずいぶん妙な話です。


 興銀のせいにするな!

 最後に、挙げ句の果てに、杉並区は、今はまだ当該文化財は興銀の所有物であるので、興銀がどうしようと杉並区はとやかく言えない・・・というような説明をするようになっています。これまでは区が所有できない理由をあれこれ主張していましたが、それが通用しないとなると、今度は興銀のせいにしようとしているわけです。

 しかし、これも妙な理屈というものです。すでに、多くの有権者の反対を押し切って、興銀には大量の公的資金が投入されています。ただでさえ、「泥棒に追い銭」状態になっているのですが、この財政難のなか、杉並区は、わざわざこれを買収してあげる立場にあるのです。いわば興銀を救済する立場にある杉並区が、「文化財はそのまま撤去せずに渡してほしい」と申し出たときに、それを興銀が拒否するとしたら、これはかなり問題です。購入者の意向を無視して文化財を勝手に撤去し、そのうえ都合よく買ってくれなどとお願いする人間が、いったいどこにいるのでしょうか? それとも、早く撤去しておかなければ、興銀にとって都合の悪いことでもあるのでしょうか?

 そもそも公的資金を投入してもらっている興銀が、購入予定者にあたる杉並区の意向を無視して、勝手に文化財を撤去できるわけがないのであって、「興銀が撤去することだから区は何も言えない」という区長の理屈は、かなりおかしな話です。かりに興銀が撤去する方針を打ち出しているとしても、区は堂々と文化財を残すよう求めるべきであると考えます。興銀にしても、まさか公的資金を受けながら、買収する立場にある区民の意向を無視して勝手に文化財を撤去してしまうような横柄な態度はとらないと思いますが・・・


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