杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2003

新・杉並公会堂の建設(契約の締結) 反対討論から

 新・杉並公会堂の建設(契約議案)が、ついに可決してしまいました。 旧・杉並公会堂

 PFI事業とはいえ、杉並区の公共事業として(独立採算制ではなく)行われる本事業については、財政的に無謀と考え、これまで積極的に論戦を挑んできました。本契約は、建設だけでなく維持管理・運営を含む33年間の一括契約ということもあり、財政的にみた今後の影響は甚大です。

 これまでも数度にわたって報告をしてきたところですが、ここでは採決にあたって、本会議場において行った反対討論をアップします。


 杉並公会堂改築等事業の契約締結について、反対の立場から意見を申し上げます。

 思えば、山田区長は区長就任早々、新公会堂建設の必要性を訴えられ、4年の任期を終える最後の最後に今回の契約議案を提出してきました。その意味では、この4年は公会堂に始まり、公会堂に終わるという感であります。

 住民投票制度を盛り込んだ自治基本条例の制定をはじめ、時代の変化に対応する数々の実績を積み上げてこられた区長が、なぜ今回のような時代錯誤の提案を行ってくるのか、理解に苦しみます。

 社会情勢が厳しさを増す中で、いまなぜこの事業を行う必要があるのか。また、この程度の検討で事業の妥当性を認め、結論を出すことができるものなのか。

 これは議会側の姿勢をも問われていると考えますが、少なくとも私は、これまでの審議において、新公会堂建設の必要性も、必然性も認めがたく、改めて今回の事態に強く抗議するものであります。

 理由の第一は、今後の財政負担が過重な点です。  

 今回の計画が、財政的にみて、いかに無謀なものであるかは、債務負担行為の設定時を含め、これまで繰り返し主張してまいりましたので、ここでその多くを繰り返すつもりはありませんが、33年間の一括契約と総額290億円にも及ぶ債務負担(予算書上の債務負担行為設定額)が、後年度に与える影響は非常に大きいものであります。

 現在すでに抱えている陰に陽に存在する債務負担の重みと、今後高齢化の影響で年々納税者が減っていくという先行きの見通しの悪さを考えれば、いくらなんでも、33年間にわたる一括契約は、無謀であります。

 厳しい財政見通しを前に、現在では、むしろ各地域で公共施設の再編を行わざるを得ないような時代です。都市全体として、類似した数多くの庁舎稼働率の低い中途半端なホールをいくつも抱えていられるような財税的余力はもはやなく、このようなことは、国や都のバランスシートなどを連結してみていけば一目瞭然であり、改めて指摘するまでもないことであります。

 そうでなくとも、今後、杉並区においても、学校をはじめ施設の老朽化がいっそう進み、新たな対応が必要になってきます。

 当該委員会(※この問題を所管していた区民生活委員会ではなく、契約議案を扱った総務財政委員会)の審議における営繕課長の公式答弁でも、それは明らかとなっておりますが、大半の校舎が残り15年程度で築50年を迎える現在、公会堂の改築とその後の維持管理運営だけに巨費を投じていられる余裕はありません

 理由の第二は、今後の事業計画の甘さです。

 今回の事業は、民間が独立採算制で行うものではなく、杉並区が33年間にわたってサービス購入料という公的資金の投入を行うことで、民間のリスクが軽減される仕組みであります。

 つまり、民間事業でありながら、ハナから採算度外視であり、それが計画の節々に如実に表れているのであります。

 たとえば、多額の債務負担を抱えてまで1,000席程度の収容人数のホールをあえて新設する必要性が、まず理解できません。

 このすぐ近くには2,200席収容の中野サンプラザがあり、1,800席の新国立劇場があり、1,200席の中野ZEROがあり、500席のセシオン杉並があります。

 また、パイプオルガン付きのホールとしては、1,300席の武蔵野市民文化会館や1,600席の東京オペラシティなどがあります。いずれも杉並区より5キロ以内の範囲に立地しているものです。(もう一回り外・電車で15〜20分圏内には、新宿文化センターや東京芸術劇場などもあります)

 これらのすぐ近くに類似のホールを新設することにどのような意味があるのか、またどのように他と差別化していくのか突き詰めなければなりませんが、納得のいく回答はありません。

 まず、成人祝賀の集いや学芸会的な区内のニーズを満たす程度のことであれば、計画のような豪華さや最高の音響にこだわる必要もないでしょう。

 逆に、区内外に誇るべきホールとして、殿堂として、きわめて高い芸術性や稼働率をも考えるというのであれば、運営上からみても、周辺の各ホールとの競合・競争も考えなければなりませんが、この点も、お寒い限りです。

 一例を挙げましょう。江東区が建設した江東公会堂(ティアラこうとう)の例であります。

 ここはオーケストラに適した最高の音響を持つホールのひとつであり、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団と提携を結んでおり、シティ・フィル側も、江東区が拠点だと言っています。

 しかし、残念ながら、東京シティ・フィルが行っているフルオーケストラによる月例の定期演奏会は、江東区ではなく、上野にある東京文化会館で行われております。

 表向きには江東区が拠点となってはいるものの、楽団メインの定期演奏会は、他の場所で実施されているという実に寂しい状況なのです。

 それは江東区という立地もさることながら、そもそもホールの収容人数が全然違うからなのであります。東京文化会館の大ホールの収容人数は2,300。これに対して江東公会堂の大ホールは1,200に過ぎません。

 公表された事業概要によれば、新しい杉並公会堂は、日フィルに年間40日程度大ホールを使ってもらうとする計画が打ち出されていますが、大ホール1,100席の新杉並公会堂が、江東公会堂の二の舞にならないという保証は、どこにもありません。

 1,000席程度のホールで興行側が採算を取るのは、そう易しいことではありません。ホール側の不採算はともかく、興行側が不採算であれば、行われるイベントは自ずと限られてきてしまいます

 再度申し上げますが、近隣は言うに及ばず、都心には現在立派なホールがたくさんあり、それが区内からも電車でごくわずかの距離にあることを忘れてはなりません。

 理由の第三は、改修という選択肢の存在です。

 杉並公会堂が、かつて東洋一の殿堂と呼ばれたこともあるためか、区および議会内では、とにかく手垢の付いていない新しいホールを求める意見が強いようであります。

 ひょっとすると、かつてテレビ番組などで会場として頻繁に使われてきたという過去の歴史も、今回新しくピカピカな建物を求める土壌を生んでいるのかもしれません。

 しかし、そのような発想が出てくるのは、そもそも頭の中がバブル期のままなのであり、少々浮かれすぎです。実際そのホールが立派で素晴らしい音響を有していればいるほど、安易に取り壊しを行わないのが、世界ではむしろ一般的なのであります。

 たとえば、1891年にできたニューヨークのカーネギーホールは、チャイコフスキーの指揮でこけら落としが行われ、その後も数々の歴史的な公演が行われてきた全米一の音楽の殿堂でありますけれども、このカーネギーホールは、エレベーターの設置などの改修こそあれ、今なお当時の姿で健在であります。

 1891年の建設と言えば、日本では明治24年。日本で初めて帝国議会が開かれた翌年にあたるわけであります。

 こうして100年以上もの歴史を持つカーネギーホールですが、クラシックについていえば、現在でも音響の良さに定評があります。それは最上階のバルコニー席の後方であったとしても、気持ちよく演奏が楽しめるほど、とのことであります。

 もちろん音響はよしとしても、その古さから使いにくいという側面もないわけではないそうですが、今なお世界中のアーティストのあこがれの舞台であり、ニューヨーク市民は、この歴史と伝統あるホールを改修という方法によって今日まで大切に守り育ててきたわけであります。

 その反面で、日本においては、実際に新しく建設はしたものの、なかなか期待したほどの音響は得られなかったと評されているホールが存在しています。

 マニュアルに基づいて新しいホールを建設すれば、今よりも素晴らしい音響が手にはいると考えるのは、必ずしも正しいことではないのでありまして、区がそれほどまでによい音響を重視するならば、むしろ改修という手段を選択したほうが賢明ですらあります。

 実際、専門家の話でも、現在の杉並公会堂は、いまなお音響という意味では素晴らしいホールであり、必要な改修を行えば、まだまだ十分使用に耐えうるとの意見を耳にしているところであり、その意味でも、今回の判断は、理解に苦しむものであります。

 先ののカーネギーホールの例のように、欧米先進国では、殿堂とまで呼ばれたことがあるような音響の良いホールをわずか数十年でスクラップするような愚かなことはしないのです。現在の財政事情を考えれば、杉並でも、そう判断すべきと考えます。

 それでも建設したいというのなら!

 以上のような理由により、現時点では、公会堂改築等事業が他の施策より優先して解決していくべき課題と判断できる要因はありません

 なお、それでも、どうしても建設したいということであれば、第一には、さらにリスクを軽減するべく複数の自治体が共同で関与する形をとる必要があると考えます。

 また、第二には、現在地のような駅からも遠く、敷地も歪で制約の多い場所ではなく、たとえば現在調査検討中の荻窪駅北口広場と東地区再開発にあわせて、駅前に建設するなど「将来のまちづくり」と連動させていくことも必要と考えます。

 さらに、第三には、検討中の再開発と分離し、現在地での建設こだわるにしても、過去の区民生活委員会の審議の過程で話題になりましたように、せめて現在行われている用途地域の改定を待って、改めて事業成立の可能性を再検討することが最低限必要と考えます。

 しかし、今回の計画は、こうした検討にも欠け、建設後のまちづくりという点でも疑問点が多く、また、これまでの事業の進め方からみても、まるで景気対策で建設するとしか思えないところがあり、この点でも納得できないところであります。

 「東京国際フォーラム」を忘れた?

 さて、丸の内に東京国際フォーラムという建物があります。

 立派な建築家に設計していただいたこともありまして、設計や建築物としての評価は高いかもしれませんが、厳しい財政難に直面する中で、他に与えている影響も大きく、現在の都庁舎の存在と同様にバブルの遺物と揶揄され、いまではむしろ蔑まれることも多くなった建物であります。

 このことは、過去の東京都の機能するバランスシートの中で、数字がハッキリと示しているところであり、もはや異論を挟む余地すらないでしょう。

 実際、現在、東京都知事の任にある石原慎太郎知事も、あまりのことにその存在そのものを激しく批判していたことがありましたが、都財政の現状を客観的にみれば、どう考えても、東京都が東京国際フォーラムを建設したこと自体が間違いだったといわざるを得ないのです。

 山田区長、あなたは都議会議員の一時期、この東京国際フォーラム建設等審議会の委員でありました。

 また、その後も、昭和63年1月の都議会総務生活文化委員会において、東京国際フォーラムについては、立派なものをつくっていただきたいと建設を推進する発言を行い、さらに平成4年の東京都議会第3回定例会においては、東京国際フォーラムの建設にかかる契約議案の審議を直接担当した財務主税委員会の委員長でありました。

 区長の都議会議員としての足跡において、東京国際フォーラムの存在は切っても切れないものであったはずです。

 誰しも失敗はあります。揚げ足取りをするつもりはありません。しかし、同じ失敗は二度繰り返してはならないでしょう。

 この23区内にいったいいくつのクラシック・ホールが存在しているのか。他にも数多くの債務を抱えている現在、公会堂の債務負担をまさか軽いとでもお思いなのか。

 この事業が独立採算で行えない以上、今後延々と続く区と区民の負担、つまりサービス購入料支払いの後始末は、いったい誰が処理していくと考えているのか。

 負担の大半はここにお座りではない、次の世代が負担させられるものであります。区長は、再び、いま同じ過ちを犯そうとしているとしか思えないのであります。

 終わりにあたりまして、深刻な事態になる前に、賢明な判断において今回の事業が見直されることを強く望み、私の意見といたします。


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