杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2003/4

 杉並区「安全美化条例」可決・成立

  残された今後の課題

 安全美化条例が成立しました。投票掲示板( 歩きたばこ禁止に 賛成?反対?)などに多数の意見が寄せられ、たいへん参考になりました。まだまだ課題は残っていますが、条例文そのものは賛否双方の主張を考慮し、現実に着地点を持ったものであり、私も賛成しています。

 条例案文の審議にあわせ、すでに条例全文を掲載していますが(→こちらへ)、以下では可決した条例の概要(新旧対照)と今後の課題を検証します。

 主な課題としては・・・
  1. 施行前に 〜当然、ポイ捨てを未然に防止する取り組みが必要
  2. 罰則の程度をどう考えるか
  3. 条例が濫用されることを心配する声もあったが
  4. 摘発のための経費をどう捻出するか 千代田区は1億円!?

 私は、(1)と(4)を大きな課題としてきましたが、議会では(2)や(3)について疑問が出されていますので、以下では少し詳しくみておきましょう。

 条例制定の経緯

 近年「ポイ捨て行為」に罰則を設ける自治体が増えてきました。また、さらに進んで千代田区のように、繁華街における歩行喫煙を徹底的に取り締まる自治体も出てきています。

 このようななか、杉並の条例では、こうした迷惑行為への対応が弱く、マナーや生活環境が悪くなっているとの指摘を受けるようになっていました。

 なかには歩きタバコが原因で火傷させられた事例も報告されるようになり、「悪質な場合ですら、いっさい罰則がない状況は問題ではないか」と規定の整備を求める声も出てきました。

 こうした風紀の悪化は、日常生活にも影響を与えているようで、なんと驚いたことに杉並は、いつの間にか各種犯罪の発生件数が、23区の中でも上位を占めるようになっていたのです。

 最近でも、連続放火事件が大きく話題となりましたが(ようやく犯人逮捕)、その他ひったくりやピンキングといった犯罪も激増し、その数は23区でもワースト5内に入るような状況(検挙率も2割台というお寒い状況)にあることが、議会(区民生活委員会)に報告されてきました。

 このような社会の変化を受けて、昨年12月に区議会(区民生活委員会)で、「安全・安心のまちづくりのための新条例が必要」とする意見が賛成多数で採択されました。

 私も条例の必要性を感じ、このときの委員会で賛成しましたが、これが具体的な条例案(何を条例中に盛り込むべきか)を検討する端緒となりました。

 旧・美化条例の全部改正へ

 従来、杉並区には環境美化に関して、美化条例(清潔で美しい杉並区をみんなでつくる条例)という条例が存在していましたが、生活安全や犯罪的な行為防止するための罰則規定は設けていませんでした。

 そこで、検討が進められた結果、今回、美化条例を全部改正し、生活安全に関する規定をも含めた安全美化条例(杉並区生活安全および環境美化に関する条例)として、新しくスタートすることになったわけです。

 新たな取り組みと罰則規定の創設

 新旧の条例を比較してみましょう。表をご覧ください。

 主な特徴は、これまで勧告などで止まっていた取り組みが、改善命令を行う形に変更となり、さらにそれに従わない悪質なケースを想定し、罰則規定を創設した点です。


 新旧条例の比較

項 目 旧・美化条例 新・安全美化条例
1.ポイ捨て行為 必要な措置を講じるよう勧告。従わないときは公表
●生活環境を著しく害しているときは改善命令
●改善命令に従わないときは公表

罰則規定の創設
 @推進モデル地区における違反に対しては過料
 A推進モデル地区内で違反し、改善命令に従わないときは罰金

 ※@Aのいずれを適用するかは生活環境を害している程度等に基づき区長が判断

2.落書き
3.犬のフンの放置
4.粗大ゴミの不法投棄
5.看板・立札などの放置 規定なし
6.歩きたばこ 規定なし
(漠然とした努力規定)
●明確な努力義務を設ける
罰則規定の創設
 路上禁煙地区における違反に対しては過料
7.空き地等の不適切な管理 必要な措置を講じるよう勧告。従わないときは公表 ●生活環境を著しく害しているときは改善命令
●改善命令に従わないときは公表
8.空き缶等回収容器の設置 同左(変更なし)
9.ビラの散乱 規定なし ●生活環境を著しく害しているときは改善命令
●改善命令に従わないときは公表
10.掲示期間の過ぎた選挙・政治活動用ポスター

 
 条例の施行は平成15年10月1日からです。 ただし、当面は準備活動や啓発活動が中心となり、気になる罰則の適用は、さらに議論を深めながら実施を検討することになります。

 罰則は、地域住民や警察との協議・合意が得られた後に、@環境美化・生活安全推進モデル地区(仮称)やA路上禁煙地区(仮称)が指定され、その指定地区内で適用されることになります。
 したがって、10月からすぐに罰則が適用されることはありません。

 今後の課題

 このように条例はできましたが、残された課題、これから本格化する検討もあります。今後の課題として、4点を付記しておきます。

 1.施行前に 〜ポイ捨てを未然に防止する取り組みが必要

 たとえば、事業者が自動販売機のそばに回収容器を設置しないばかりに散乱する空き缶もあり、これについての対策が必要です。

 非常に残念であるのは、「G空き缶等の回収容器の設置」に関する規定については、上の新旧対照表でも分かるように、ここだけは手つかずになってしまいました。

 運用でこのままになれば、自販機でお茶を買い、そこに回収箱がないばかりに空き缶を放置することになった場合、誰に責任があるのかというクレームが出てくることでしょう。

 もちろん、第一義的にはポイ捨てをした本人の問題なのですが、リサイクルの推進という観点からも、まちの美化という観点からも、自販機の設置業者や製造業者が回収箱を設けることは、本来、当然の責務と思います。

 その意味では、ポイ捨てをした本人だけでなく、無人の自販機を設置しながら回収容器を設置しない事業者にも相応の措置(改善命令)がなければ、バランスが悪いとも思います。「売ったら売りっぱなし」を放置するのは、環境先進都市としては、どんなものでしょうか?

 これは私も問題視し、議会でも話題にした点ですが、まずは、条例の施行前に、このような事例が発生することのないよう、事業者にも強い指導をしていくことが必要と考えています。

 本条例の上では事業者には罰則などの咎めはないのですが、運用上でこれが放置されることがあれば、問題。条例の施行は10月からですが、この点は、施行前から取り組みを進める必要があると考えています。

 2.罰則の程度をどう考えるか

 今回の条例は、軽犯罪法の定めよりも実質的に重い刑罰を科すことができる部分があるとして、問題視する意見がありました。

 一方、その反面で、区民のみなさんから寄せられた声の中には、とにかく重い刑罰を求める声が多数ありました。

 どちらも難しい問題です。軽くては効果がないという指摘もありますし、逆に他の法令とのバランスを欠いて、むやみやたらに厳しい運用すれば、それはそれで問題が生じる可能性もあります。

 一例を挙げます。たとえば、軽犯罪法では、次のようなことをした者に対し「拘留又は科料に処する」ことになっています。
  • 相当の注意をしないで、建物、森林その他燃えるような物の附近で火をたき、又はガソリンその他引火し易い物の附近で火気を用いた者 (軽犯罪法第1条9)
  • 相当の注意をしないで、銃砲又は火薬類、ボイラーその他の爆発する物を使用し、又はもてあそんだ者 (軽犯罪法第1条10)

 なお、「拘留」というのは、1日以上30日未満の間、拘置されるものです(刑法16条)。
 「科料」とは、千円以上1万円未満の刑(刑法17条)のことです。

 この軽犯罪法で考えてみると、たとえば、引火物の近くで火遊びをした場合、軽犯罪法違反ということで、1万円未満の「科料」が適用されるということになるでしょう。

 一方で、今回の安全美化条例の規定では、たとえば、指定区域内でポイ捨て行為をした者に対し、2万円以下の「過料」を徴収するか、悪質な場合は5万円以下の「罰金」が科されることになっています。

 引火物の近くでの火遊びは刑事罰(犯罪)扱いで、単純なポイ捨ての場合は行政罰扱いですから、その軽重はいうまでもありません。刑事罰の方が重いわけです。

 しかし、前者で1万円を払ったケースと、後者で2万円を払ったケースが出てくれば、きっと多くの方は矛盾を感じてしまうこともあるかもしれません。

 また、後者が5万円の罰金となった場合は、さらに大きな矛盾を感じる方が出てくるでしょう。火遊びより金額が重いのはなぜか、と。

 実際に火気をもてあそんだ者を1万円の「科料」とし、ポイ捨て行為をした者を5万円の「罰金」としてしまえば、そのバランスからみて、合法ではないと訴訟が起こる可能性も否定できません。

 なお、千代田区は、もっとも早くから「歩きタバコ」に厳しい措置をとっており、条例において2万円の過料を定めています。しかし、実際の運用では、2000円のみを徴収するに止まっているのが現状です。

 他の法とのバランスを無視するわけにもいきませんし、よほど悪質な例を除けば、千代田区の対応は、運用上やむを得ないものと思います。

 悪質な場合に最悪5万円もあり得るというのは、他の法律と比較すれば、現在でもかなり厳しいわけで、違法性が指摘される可能性すらあります。むしろ、そこまで覚悟を決めて取り組もうとしているわけで、これでも軽いと言われても、それは日本の法体系がそもそも厳罰主義になっていないことの限界なわけです。

 なお、私個人は、罰則はあくまで「よき抑止力」として、効果をあげてくれればと思っています。悪質な場合に区が強い態度で挑むべき(厳罰適用)はいうまでもありませんが、基本的には多くの人びとにあるべきモラルを取り戻してもらえるよう、まずは理解を求めながら対策を進めるべきと思います。


 3.条例が濫用されることを心配する声もあったが

 条例制定にあわせて、今後、区では必要に応じて一定規模以上の建物の建築主に対し、防犯設備・防犯装置の設置を働きかけるなど、新たな取り組みも強化していくことになりました。

 監視カメラを推奨しているのではないかと問題視する意見もありましたが、いうまでもなく、これはプライバシーの侵害行為を推奨したり、監視カメラの設置を強制するような規定ではありません。
 もちろん、プライバシーへの配慮は必要ですので、利用方法は限定し、あくまで適正な利用にとどめることは当然のことです。

 ただ、プライバシーへの配慮を促していくのも当然ですが、安全な生活環境の確保にむけて、必要な自衛策を紹介していくことも、同じように必要なことと思います。昨今の状況をふまえれば、昔を懐かしがっていても仕方がないと思うのです。

 また、今回の条例によって「経済活動の自由」や「表現の自由」が侵されるのではないかとの意見も出ています。

 こうした懸念が出てくるのは、営業用や宣伝用の看板やポスター・ビラなどについて、区長が改善命令をするなど公権力を行使できるようになるからかもしれません。

 しかし、これを適用するのは、放置・散乱によって、「生活環境を著しく害している場合」に限られています。それが長く放置・散乱されたままになっていなければ、ふつうに営業宣伝活動をすることは、何ら問題はないことになっています。

 この点は、区が目的を逸脱して濫用しない旨の答弁もしていますが、公共の福祉に反しないかぎり、基本的に自由を保障するのは、いうまでもない当然のことでしょう。

 まして、悪質な場合に適用される罰則については、後に警察や地元との協議の上で指定される予定の「(仮称)環境美化・生活安全推進モデル地区」のみの話であり、これもきわめて限定的な規定になっています。

 このように、条例において、すでに二重三重の制約が存在している以上、濫用される恐れは、ほとんどないと考えています。

 実際、表現の自由に関する課題については、マスコミも敏感なわけで、濫用があれば、そうした第四の権力が黙っていないことでしょう。今後は前向きな気持ちで条例を活用し、対策を進めていくべきと思っています。

 「歩きたばこ」がよい例なのですが、濫用批判を恐れて対策が後手後手に回れば、まちは危険で、汚れるばかりになってしまいます。濫用を戒めつつも、一定の抑止力をもつものとして、今回の条例制定には意味があると考えます。

 とくに、最近では一部の地域で風俗店の悪質な客引き行為が復活しており、区内でも安心して歩くことができないような場所も増えてきました。

 条例制定を契機に警察など関係機関との協議の場も増えていくことになりますが、こうした点でも、新条例の制定は意味があるものと考えています。

 4.摘発のための経費をどう捻出するか? 千代田区は初年度1億円
  〜(仮称)「環境美化・生活安全推進モデル地区」「路上禁煙地区」の問題

 罰則を適用することになる地区の指定は、地元や警察との協議・合意のうえで、実施することになっています。
 
 とくに路上禁煙地区に指定された場合、道路上に吸い殻を捨てる行為だけでなく、道路上での喫煙についても罰則が適用されます。実際の地区指定にあたっては、地域レベルで論議を呼ぶことになるでしょう。

 さて、ここで課題となってくるのは、経費の問題です。

 調べてみると、千代田区では初年度に1億円、平成15年度の今年も約8,000万円の予算を組んで周知活動を行い、あわせて摘発を行っていました。

 なお、ここまで経費をかけても、千代田区における実際の過料の徴収は、数百万円といったレベルにとどまっています。もちろん、マナーが守られるようになれば、過料の徴収も減るわけですから、これは好ましいことではあります。

 ただ、一方で、千代田区の事例は、摘発活動をするには、過料収入の十倍以上の経費がかかるという厳しい現実も示しているわけです。

 これは千代田区のような富裕区ならではの取り組み方なのですが、杉並区においても、今後の予算措置をどうするのか、取り組みを強化すればするほど経費がかかるだけに、大きな課題となってきます。

 幸い、都心区で昼間人口が100万人以上にもなっている千代田区(夜間人口は3万)とは異なり、基本的に杉並区は住宅地。区外からの流入者の数は、千代田区ほどではありません。

 また、杉並区の約50万の在住人口の約半数は、区内を拠点にした昼間生活を営んでいますので、千代田区ほどの経費は必要ないとは思います。

 参考までに、杉並の場合、平成15年度は、条例の施行が10月からということもあって、現在のところ杉並区では1,466万円を確保しているに過ぎません。今後、もし千代田区と同等の取り組みをするとすれば、現在の数倍の予算が必要になるのも、間違いない現実と思います。

 改選を挟んでいますので(当初予算は準骨格予算でしたので)、改選後の新しい区長と議員で補正予算が組まれることになりますが、まずは、ここがひとつの焦点となるでしょう。対策経費の捻出は、今後も無視することができない課題のひとつです。

 このようにルールはできましたが、運用にあたっては、まだまだ課題が山積しているのが現実です。

 今後、住民代表を交えた協議会が設置され、以上のような課題について検討が進められることになります。

 現実をふまえながら、引き続き私も検討を深めていきたいと思いますので、今後ともご意見をお寄せいただければ幸いです。

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