杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2003
  杉並区「自治基本条例」  残された課題(その1)  住民投票制度
住民投票の実現には まだまだハードルが・・・

 杉並区で、東京都内初となる「住民投票制度」を盛り込んだ自治基本条例が成立しました。区の基本法ともいえるまったく新しい条例になります。

 条例案は、区長の提案でしたが、議会で一部が修正され、成立しました。

 私は賛成していますが、かなり妥協させられた気分も強く、最後まで改善すべき点につき質疑を続けました。修正案は一長一短あり、正直言えば、原案のままにしておいたほうが良かった部分も少なからず存在しました。

 条例は成立しましたが、解決すべき課題は、まだまだ山積していますので、今後も継続的に改善の必要性を議論していきたいと考えています。この自治基本条例については、シリーズで今後の課題を検証していきます。

 今回は、まず新設されることになった区の「住民投票制度」について話題にします。住民投票制度についても、制度こそできたものの、残念ながら、今回の条例だけで実施することはできないのです。

 住民投票の実施を請求するには

 条例に基づき区に住民投票の実施を求めるには、まず次の要件を満たす必要があります。
  1. 満18歳以上の区民(住民登録者)の1/50以上の署名で住民投票を求める意見が提出された場合

  2. 議員の1/12以上(=議員4名以上)から住民投票の実施が提案された場合

  3. 区長が自分で発議した場合

 以上のいずれかがあった場合、区長はそれに対する意見を付して、議会に諮ることになっています。議会が認めれば、晴れて住民投票が実施されるわけです。

 ただし、実施にあたっては、いくつか乗り越えなければならない壁が残っています。

 第一の壁は、議会の存在です。

 今回の条例では、実際に住民投票を実施するには、議会の議決(過半数)が必要になっています。

 しかし、議員のなかには、住民投票制度に懐疑的な発言をしている者もいます。このため、実際に実施するには、紆余曲折があるかと思います。ここが最大の難関となる可能性があります。

 もちろん、なんでもかんでも住民投票にかけるというわけにはいきませんが、大きな債務負担をともなう課題を決定する際などには、ぜひ実施していくべきと考えます。その際、かりに過半数に届かないにしても、請求した住民や議員の数が相応に多い場合は、実施できるようにすることも必要ではないかと思います。

 当初は安定した結果が出ないなど、代議制との調整が難しいこともあるでしょう。それでも「地方自治は民主主義の学校」なのであり、政治不信が高まっている昨今、ときにそうした試行錯誤の機会を設けることも、健全な民主主義の発展に必要なことと感じています。

 第二の壁は、費用の問題です。

 毎回の選挙には、非常に多額の経費がかかっています。

 たとえば、杉並の区長選・区議選の実施には、1億5000万円ほどの費用がかかっています。現状では、おそらく住民投票でも1億円近くの経費が必要になると思います。

 かなりの額であり、この財政難では、現実問題として、そう簡単に捻出できる金額ではありません。少なくとも電子投票等を導入しないかぎり、この膨大なコストを負担するのは、ハッキリ言って困難です。電子投票の導入を急ぐ必要があります。

 第三の壁は、運営上の問題(運営ルールや主催者の問題)です。

 今回の条例に基づく住民投票は、公職選挙法の適用外になります。つまり、法律にルールが明記されていないことから、どのような活動(工作)をしても良いことになります。

 つまり、運動資金等の上限などについても、何ら規定がないわけですから、公選法が禁止している金権選挙(買収饗応の類)・戸別訪問・複数の宣伝カーの利用・深夜に及ぶ活動などが行われる可能性があります。

 また、かりに公選法に準ずるとする条例をつくって対応するとしても、警察等の協力が得られなければ、実質的な取り締まりは行われないため、「なんでもあり」になってしまいます。実際にも警察は区の管轄ではありませんから、はたして必要な協力が得られるかどうか、悩ましいところです。

 また、住民投票の主催者は誰にするのかという問題もあります。

 区長が主催すれば良いではないかという方もいるもしれませんが、住民投票にかけられる議題は、「区長がそれに対する意見を付して議会に可否を求める」形をとっていますので、区長はすでに利害関係者ということができ、あまり適切ではありません。

 「通常の区の選挙と同じように、選挙管理委員会が主催すればよいではないか」という意見もあります。選管は、区長と議会から完全に独立し、政治的中立を旨としていますので、私もそれが適当だと思います。

 しかし、反面で、選管は個々の価値判断に踏み込んではならない機関ということになっていますから、住民投票のように、政策課題に対して、あからさまに価値判断を行う性質のものを自ら主催することについては、法的に微妙なラインにあるかもしれません。(考えすぎでしょうか??)

 新たに第三者機関を設立できれば理想ですが、「では、その第三者機関の委員を誰が委嘱するのか?」という課題もあります。

 以上の運営上の課題を整理していくことが必要です。

 このほか第四として、投票資格要件に関する課題も出てくるかもしれません。

 住民投票の実施を求める「請求」は、18〜19歳の区民や永住外国人の方でもできることになっています。しかし、「実際の投票資格」は、その都度、別の条例で定めることになっています。

 この点が非常にあいまいになっているのですが、そのポイントは住民投票の請求者が、フタを開けてみたら実際には投票できない可能性があるということです。

 投票資格についても、それぞれに見解の相違があり、投票権を認めるか認めないかで論議が紛糾する可能性もありそうです。

 なお、杉並区議会は過去に永住外国人の地方参政権を認めることを求める決議をしています(意見書)。ただ、私が当選するより前のことですし、決議にいたる当時の背景事情等について詳細を把握しているわけではないのですが、それを否定する決議は、現在まで存在していない状況にあります。

 やっとのことで実現した制度でもあります。実施に1億円程度の費用がかかるなど、現状では難しい課題もありますが、大きな債務負担をともなう懸案を審査する際などには、ぜひ実施していきたいものです。

 さまざまな課題がありますが、まずは、電子投票の可能性を追求することが可能性を現実に近づける第一歩と考えています。

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