杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2000 12月2 No.78

堀部やすしの決算意見2000
平成11(1999)年度 杉並区決算

 決算特別委員会を通じて、区議会は、昨年度の区の決算を審議し、来年度を展望しました(とくに、今年は、10ヶ年の新しい行政計画が発表された直後だったこともあり、プレ予算審議に近い感じになりました)。
 
 今回は、決算特別委員会(最終日)の採決の前に、私が発言した意見を掲載します。

1.赤字区債の発行は、公約違反だ
2.具体的な財政再建目標がなかったのは問題 財政規律はどこへ
3.杉並病問題  議会の議決に沿った取り組みをしなかったのは問題
4.杉並公会堂の改築など 不要不急の設計作業を進める必要はなかったはずだ
5.区長の専決処分の是非  税や保険料改正は専決処分すべきでなく議会に諮るべき
 5補足:国民健康保険に経営感覚が導入されていない

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6.歳入減に見合った厳しい歳出削減を実施するべき
7.さらに高い財政健全化目標を持って取り組みを進めるべき
8.介護保険・福祉オンブズマンの設置を
9.電子区役所の実現にむけてと「2000年問題」の総括
10.日産工場跡地・汚染対策には万全を期すべき



堀部やすしの決算意見
 決算特別委員会の締めくくりにあたり、意見を申し上げます。

 平成11年度は、新しく山田区長が誕生し、新しい区政が始まったスタートの年であります。私は、区政がこれで大きく転換したことは評価しますし、区長が目指す区政のありようについても、その大きな方向性には賛同しておりますが、実際の区政運営には疑問を感じる部分も多く、用地会計を除く主な決算の認定には反対するものであります。以下、主たる反対理由を述べるとともに、若干の意見要望を申し添えます。

1.赤字区債の発行は、公約違反だ

 第一に、区長の公約からみて、15億円を超える減税補てん債の発行は、過大でありました。

 もっとも、区長にとってみれば、当該年度、当選したころには、すでに準骨格予算が編成されてしまっており、存分にその個性を発揮することができなかったことは、不本意なことだったでありましょう。赤字区債の発行もやむなしとの判断は現実的ではあったかもしれませんが、それを、ろくに圧縮することもなく、安易に発行してしまったのは、選挙公約との整合性からみて、まったく納得できないものであります。

 いうまでもなく赤字区債は、まさに現役世代の都合のために、未来にツケを回すものであり、一般にこれを恒常的に発行しつづけるのは、異常な状態であります。国会議員時代より財政再建にむけて並々ならぬ取り組みを見せ、最近でも自由社会を愛するが故と称した発言をしている者が、赤字区債を大量に発行し続けることは、「次世代の自由」と「未来への責任」を全うしていることにはならないのであります。

 繰り返し申し上げますが、区長の国会議員時代の主義主張や、選挙公約等から判断するに、赤字区債の発行は、公約違反の誹りを免れ得ないものであります。税財政政策は、政治の根本であり、選挙前の主義主張を安易に変更してよい性質のものではありません。これが決算の認定に反対する最大の理由であります。

 もちろん、これは区の一切の起債に反対するものではなく、近い将来、国や都をあてにできる段階にはなくなってしまうであろうという予測から、あくまで減税分を補てんする赤字区債の発行に反対しているだけであります。来年度以降、歳出削減のほか、区有財産の売却・有効活用などを進めながら、財政再建を加速されるよう、重ねて要望するものであります。


2.具体的な財政再建目標がなかったのは問題 財政規律はどこへ


 第二に、当該年度、財政再建目標が明確でなかったことは、財政悪化を拡大させた大きな要因であります。その結果、当該年度の経常収支比率は95%にも達し、代表監査委員が指摘するように、もはや区の財政状況は、重体に至っているわけであります。改めてこれを謙虚に受け止められ、今後は計画毎に適切な目標を設定し、大胆な外科手術を進められるよう、要望いたします。

 幸い、この11月に入って財政健全化目標が提示されるようになり、区も財政再建に向けて、新たな一歩を踏み出しました。目標が明確になったという意味では評価したいと思いますし、現実的な目標値とも思いますけれども、かつて財政均衡を唱えたこともある区長の掲げた目標にしては、そのハードルの低さは否めない感があります。

 後ほどこの点については、改めて指摘いたしますが(こちら)、今後の計画では、さらに適切な目標を設定されるよう要望します。


3.杉並病問題
  議会の議決に沿った取り組みをしなかったのは問題


 第三に、杉並中継所をめぐる問題について、区が区民や議会の意向に沿った取り組みを行わなかったのは、問題であります。

 当該年度、区議会では、区民から出された陳情が正式に採択される形で、「杉並中継所の一時停止を求める意見書」が全会一致で提出されたわけであります。ご承知のとおり、当該年度において、杉並中継所を一時操業停止したうえでの調査は行われることがありませんでした。

 当時、杉並中継所は、東京都の管理下にありましたので、それも致し方なかったわけでありますが、しかし、区が議会決定に沿う形で、都に対して働きかけを行わなかったことは、区民軽視・議会軽視も甚だしく、承服できない点であります。

 杉並中継所周辺で発生した健康被害(いわゆる杉並病)については、検証されていない点も少なくなく、過去の行政の対応をみておりましても、公害問題に対する謙虚さがあまり感じられないところであります。

 そもそも、東京都は、区に清掃事業が移管される直前の年度末ギリギリになって、硫化水素原因説を提示してきましたが、それまでは、ほとんどまともな理屈は提示してこなかったわけであります。

 こうした状況に業を煮やし、区議会は当該年度9月に陳情を採択し、また全会一致で意見書まで出して改善を要望をしていました。この問題の複雑さ・難しさは理解しないでもありませんが、区議会の議決を経て提出された区民と議会の切実な要望(陳情の採択と意見書の提出)に対し、東京都に明確な要請活動を行わなかったのは、議会との関係性からみても、大きな問題が残ったことを指摘するものであります。


4.杉並公会堂の改築など
  不要不急の設計作業を進める必要はなかったはずだ


 第四に、投資的経費については抑えられてはいますが、それでも、この財政が厳しいおりに、杉並公会堂の改築設計など、不要不急の作業が進められたことは、問題であります。

 明るい兆しがまるで見えないこの状況では、新たなハコモノづくりよりも、今あるものをどう活用するか知恵を出すことが賢明なあり方であります。区民の日常生活に大きな影響を与えるものは、財政事情を勘案しながら進めていくべきでありましょうが、とくに杉並公会堂の改築については、不要不急の事業であり、財政難の中で作業を進めるべきものではありません。

 そもそも、日々の生活に困っている者が、毎日使うわけでもない施設をつくるために、赤字区債を発行してまで設計作業を進めているのは、きわめて異常な状態であります。今後、慎重に対応されるよう要望いたします。


5.区長の専決処分の是非
  税や保険料改正は専決処分すべきでなく議会に諮るべき


 第五に、国民健康保険条例の一部を改正する条例が専決処分されたことや、保険運営に経営感覚が導入されていないことは、問題であります。

 ここでいう条例改正は、平成11年3月26日に都条例が改正された後に、区の国保運営協議会に諮られ、専決処分となったわけであります。

 しかし、その後、臨時議会を開催することが全く不可能な状態であったとは思えません。私はここでの改正内容そのものについて、必ずしも反対するものではありませんが、税や保険料に関する変更については、区民の経済生活に密接に関わることであり、安易に専決処分という形を取るべきではないと考えるものです。今後、配慮されるようお願いいたします。

 また、議会としても、区長の安易な専決処分を許さないようにするべきだと考える次第であります。

5補足:国民健康保険に経営感覚が導入されていない

 また、国民健康保険について、現下の状況では、現実問題として、これ以上保険料・収納率をアップさせることは難しいように感じます。区は、歳入の確保に努めると同様、保険を運営する保険者として、適正な医療費給付を図っていくことが必要不可欠であります。しかし、この点は、監査意見書にすら指摘されておらず、取り組みがまだまだであります。今後、とくに、留意されるよう要望いたします。

 報道などによれば、医療費の過剰請求や架空請求は後を絶っていないようであります。また、昨日の朝日新聞の一面トップで報道されておりましたが、老人医療費が重荷になっているため、各健保組合は、解散の危機に直面しております。区の老人保健医療会計においても、過剰請求や架空請求に対して適切な経営感覚を発揮していきませんと、現役世代の負担は上昇する一方であります。

 各健保では、レセプト点検のさらなる強化や病院選別の動きすら出てきました。民間の労働組合などでは、カルテやレセプト、領収書の請求を奨励するところも出てきています。区においても、今後も財政難が予想されている以上、よりいっそう実効のある対策を進める必要があるはずであります。

 ところが、区財政が、いわば「重体」の状況にある中でも、国保についての対策は従来の姿勢を超えるものではなく、区としての自助努力はあまり感じられず、前向きに取り組んでいないといわざるを得ません。

 なんと、未だに明細はおろか領収書すら発行しない医療機関があるようですが、適切な医療費の支給を進める上でも、保険者である区が医療機関側に改善を要望するのは当たり前のことであります。この点をみても、経営努力の点で、民間(健康保険)との差は歴然であります。

 また、収納率が低下する一方で保険料が上昇し続けているわけですから、さらに効果的な医療費通知のあり方を検討することや、医療情報の開示を簡便化すること、また加入者を巻き込む形でレセプト点検等が行われるよう誘導していくことなども、必要であると考えます。

 国保会計・老人保健医療会計においても、区長の公約である経営感覚を発揮され、一般会計同様に歳出削減努力を進められるよう、要求いたします。
 以上のような理由により、用地会計を除く各会計決算の認定には反対するものであります。なお、以下、あわせて、来年度以降にむけて、五点に絞って要望を申し添えます。


6.歳入減に見合った厳しい歳出削減を実施するべき


 第一に、将来の区の教育水準・福祉水準の低下を防ぐためにも、行革のスピードを速め、歳入減に見合った厳しい歳出削減を実施するべきであります。

 区でも行革はスピードが重要であるということが認識されるようになったのは嬉しいことでありますが、それでも、まだまだ先送りが目立ちます。そうでなくとも、一般に説得と合意を得るには時間がかかるものでありますので、区長には、よりいっそう取り組みを進められ、スピーディな決断と実行および公表に努められるようお願いしたいと思います。

 たとえば、区立の宿泊施設(保養所や校外施設)については、今後、とりあえず民営化方式をとるというお話であります。民営化してもやっていけないからこそ、「民営化方式」という新手の形態になるものと存じますが、どうも結論を先延ばしをしている感が否めません。苦しい状況のなかでも、なんとか必要な教育予算等を捻出することができるよう、区立の宿泊施設(保養所等)については、完全民営化ないし廃止という形で、一刻も早く結論を出すべきであります。


7.さらに高い財政健全化目標を持って取り組みを進めるべき


 第二に、財政再建に取り組むにあたっては、今後、さらに高い財政健全化目標を持って取り組みを進めるべきであります。

 この点については、今回、具体的な目標が提示されたことは評価いたしますが、一方で、今回の目標では、数字のトリックによって、改革が中途半端にされてしまう可能性もあります。さらに多様な角度からの目標を設定し、さらに高いハードルによる努力を求めるものであります。


 【1】 まず、今回の目標の中には、現在約30%にもなっている人件費比率を25%に下げるという目標が出てきました。たしかに、退職者の不補充や民間委託を進めれば、比較的容易に人件費は下がることでありましょう。現実的な目標ではあります。しかし、人件費は下がっても、今度は逆に物件費が上昇するわけでありまして、必ずしも大胆な歳出削減が進まない可能性があります。

 とくに、区の契約においては、競争によらない随意契約が横行しております。また、先日も文教委員会で指摘しましたが、入札にあたって、さまざまな参入規制が残っていたり、NPOを契約の対象外とするといった状態が続いていたのでは、民間委託をしても、必ずしも削減効果が上がらない可能性があります。

 物件費の高止まりを防止するためには、契約のあり方や、さまざまな参入規制の緩和についても、同様に明確な数値目標を定めていかなければ、今度は物件費が高止まりし、歳出削減が尻抜けになってしまう可能性があるのであります。

 【2】 つぎに、今回の財政健全化目標の中には、現在95%台に達している経常収支比率を10年後に80%にするという目標も出てきました。

 しかし、区長は、選挙の時には、杉並区の経常収支比率が80%を超えてたいへんだと訴え、このままでは区が倒産すると主張していたわけであります。その区長が財政再建をめざすというときに、10年後の目標が80%程度だというのは、腑に落ちない低い目標値であります。区財政の実態からみれば、現実的な判断ではありますが、残念ながら、現実迎合的な目標値といわざるを得ません。。

 ちなみに、自治省は財政の健全性について、起債制限比率10%未満で、かつ経常収支比率75%未満であることを目安と考えているようです。今年度についていえば、この要件を満たす自治体は、財政の健全性が確保されているということで、地方債の許可についても、原則申請に基づき弾力的に取り扱われることになっていました。現在における自治体の健全性を表す一つの目安といえるように思います。

 このような目安を踏まえたとき、経常収支比率は、やはり70%台に乗せることが健全化のポイントではないかと思うわけであります。山田区長(均衡財政論者)であれば、やはり最低でも経常収支比率75%を目標とする計画を立てるのが筋ではないかと考えるものであります。改めて、一考されるよう要望いたします。

 【3】 なお、審議の中で指摘がありましたように、経常収支比率は、分母をいじることで、数値を変えることができます。こうした点を踏まえれば、財政力指数など他の指標についても、指標を検討すべきではないかと考えます。23区の場合は、都区の財政調整の関係もあり、他と比較できず難しい点もありますが、これを踏まえたうえで、都財政と区財政とを総合的にみた視点を考えることがあってもよいはずでありましょう。

 【4】 また、区長選挙のときの公約である区の支出の20%削減を実現することが、新しい行政計画のなかで、明確な目標として打ち出されていないのも、不思議なことであります。今後さらに明確な目標を持ち、積極的な取り組みを行うよう要望するものであります。


8.介護保険・福祉オンブズマンの設置を


 第三に、現在の要介護認定の矛盾が拡大し、不公平感が高まる前に、認定基準をよりいっそう明確にし、公正公平な要介護認定を実現されるよう、努力を求めるものであります。

 給付やサービスの質が追いつかないのは、現実問題として、やむをえない部分もありますが、認定のばらつきや不明確さは、保険制度の根幹に関わる重大な問題であります。この点も過去にさまざま要望させていただきましたが、区は介護保険が自治事務であることを踏まえたうえで、責任ある取り組みをすすめるよう要望します。

 また、こうした要介護認定に関する問題だけでなく、サービス契約が遵守されているかチェックするためにも、福祉オンブズマン制度の導入を検討されるよう、改めて要望いたします。


9.電子区役所の実現にむけて


 第四に、IT革命に対応した取り組みを加速されるよう要望いたします。

 IT革命によって、行政の事務作業は、飛躍的に効率化することができます。幸い、新しい行政計画の中でも、行政の電子化について、特段の配慮がなされていることは評価いたします。年明けからは、住民からの問い合わせに対して、電子メールによる返信も可能になるとの話もあり、今後の着実な進展を期待しております。

 しかし、今後、電子区役所を実現できるとしても、これを使いこなすのは、あくまで人間であります。使いこなせる人間が少なければ、これも宝の持ち腐れになってしまうわけでありまして、電子区役所の成否は、これを使いこなせる人間の数にかかっています。

 将来、限られた財源と人材で区民にサービスを提供できるようにするためは、電子区役所の実現が成否を握っているのであり、地域の人材を活用しながら、デジタル・ディバイドの克服に向けて、いっそうの取り組みを加速していくべきであります。

 当面は、その準備期間にあたりますが、とりあえずは、早い時期にホームページを活用した住民票など申請書の電子配信サービスを実現されるよう要望いたします。

 また、2000年問題については、大きな混乱もなく、無事であったことは幸いでありました。しかし、うるう日の2月29日には、杉並区でも戸籍の検索システムに若干のトラブルが発生し、その修正に2時間半ほどの時間がかかったというお話であります。

 こうしたコンピュータ・システムの修正作業は、永遠につきまとう問題であり、終わりなき作業ではありますが、今回の経験を教訓に、今後ともご留意いただきたいと思います。


10.日産工場跡地・汚染対策には万全を期すべき


 第五に、日産工場跡地の汚染については、周辺地域への汚染の拡大がないか、精密調査を実施するべきであります。

 区が10月に実施したような、周囲に現存する井戸を調査しただけで、周辺土壌に汚染がないと推定するのは、少々楽観的な推定であります。周辺地域での精密調査も行わず、汚染の可能性がないと推定することは危険であり、念のために、しっかり調査を行うべきであります。

 もちろん、本当に汚染がなければ、それは幸いなことであります。しかし、もし、日産が工場跡地を売却した後になって、周囲に深刻な汚染が発覚するようなことがあったとしたら、日産の責任を追及することは、ほとんど不可能になってしまうことでありましょう。そうなった場合、おそらく、その責めは、第一義的に行政の不作為によるものといわれかねません。だからこそ、いま、精密調査を要望しているわけであります。

 なお、誤解なきよう申し添えますが、私の要望は、まず、工場跡地の周囲で表層ガス調査を行い、もし、万一そこで問題があった場合は、ボーリング調査を行ってほしいというものであります。

 そもそも工場跡地周囲は、公共の道路なのであり、調査は可能であります。それで問題がなければ、それ以上ボーリング調査などを行う必要はありませんし、ましてや民有地に調査を行うよう強制できるわけはありませんので、それを求めているわけでもありません。

 また、万一、ボーリング調査が必要であると判断された場合でも、各々の土地を保有する方々が、それをどうするかは、各人の自己責任において判断していただくことはいうまでもないことであります。

 私は、工場跡地の周辺道路が、行政が管理している場所であるからこそ、その部分において、管理者である行政が適切な調査を行い、正確な情報を提供するように要望しているのであります。真意をお酌み取りいただきまして、いま一度、調査の実施を再検討されるよう、強く要望いたします。
 
 さて、最後になりますが、今回も審議に先立ちましては、数多くの資料請求をさせていただきました。この場を借りて御礼申し上げ、私の意見開陳を終わらせていただきます。


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