杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線2000 9月3 No.67
(杉並区21世紀ビジョンを考える その1) 21世紀ビジョン(基本構想)とは? その策定の背景 |
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杉並区のむこう25年を展望する「21世紀ビジョン」が完成しました。これは、区の基本構想となるもので、いわば杉並区の憲法に相当するものです。区の広報にも何度か経過が報告されているので、ご存じの方もいらっしゃることでしょう(知らない人は全く知らないわけですが!)。
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■「21世紀ビジョン」 策定の背景 | ||||||||||||||
昨年、山田宏・新区長が誕生した直後に、新しい基本構想(21世紀ビジョン)をつくることが決まりました。 ちょうど去年から今年にかけて、区長が代わり、地方自治法等が代わり、都区制度改革が進み(清掃事業や教科書選定作業などが新たに区の仕事になるなど、区の権限が拡大)、新たな杉並区がスタートしました。一方で、IT革命の進展や教育現場の荒廃、杉並病騒ぎの発生などなど、区を取り巻く環境も大きく変化してきました。これらに対応するために、区も新しいビジョン(基本構想)を策定する方針を打ち出したわけです。 ビジョンは、昨年9月より約1年かけて審議される一方、区民アンケートや対話集会(区民フォーラム)を実施したり、区のホームページなどを活用して、原案がつくられていきました。この原案は、主に審議会で議論されてきましたが、その構成メンバーは次のとおりでした。
区内の団体代表や議員の数が多いのは、一種の根回しという意味なのでしょう。とくに、いくら良いビジョンを作成しても、最終的には議会の議決が必要になりますから、多数会派の議員を取り込んでおくことは重要なポイントになります。議員枠が7人というのも、6つの多数会派に万遍なく配分するにはピッタリの数になっていました。 また、同じように、地域の顔役に事前に合意を得ておくことも、重要なポイントだと考えているのでしょう。町会連合会・商店会連合会・商工会議所・医師会といった区内の有力団体の代表者を委員にしているのも、その表れなのかもしれません。このほか、学識経験者として、PHPの江口克彦氏や、マイクロソフトで活躍された成毛眞氏など、区長の人脈も大いに反映されているものとなっていました。 なお、女性の委員は約3割。かなり女性には配慮されるようになってきていますが、残念ながら、典型的なサイレント・マジョリティーである「一般の給与所得者層」「若年層」の代表者は、ごく少数でした。 |
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■若年世代の委員が少なすぎ! 参加枠を設けるべき | ||||||||||||||
私のような世代の立場から言わせていただければ、25年後に社会の中心で活躍するようになっている世代を実質的に排除しているような審議会で、25年後の杉並の将来像を決めてしまうというのは、少々納得できない思いがあります。 実際に、20代の参加者は、たった一人。30代もごくわずかでした。40代以下の委員は本当に少数でしたが、25年後の現役世代は、いうまでもなく40代以下が中心のはずです。本来は、将来をより長く生きる者が、社会の中でもより大きな責任を担っていくよう誘導していくべきであって、この審議会に若年世代の代表者となる委員がきわめて少数に留まったことは、不満の残る点です。この点は、とくに今後の改善を要望したところです。 なお、そのメンバーは、公募で大勢集められれば、いちばん良いのですが、それが無理でも、やり方はいろいろあると思います。たとえば、地域で活動するボランティア団体やNPOには若い世代も数多く参加していますから、そこに話をもっていくというやり方もあるでしょう。また、大学・大学院には、まちづくりや行政に関心のある学生も大勢いますから、そこに直接話をもっていくという手もあるでしょう。 |
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■中堅サラリーマン層の委員も少なすぎ! | ||||||||||||||
また、同様に、一般の給与所得者(俗に言うサラリーマン層)の代表者についても、それが割合からみて少数であったのは、残念なことでした。 一般のサラリーマンは、税金は源泉徴収でしっかり押さえられているうえに、累進課税もきつく、実際の可処分所得は決して多くありません。また、決して短くない時間を厳しい通勤ラッシュにもまれるなど、きわめて窮屈な日常生活を余儀なくされています。行政サービスの恩恵をもっとも受けていない層といっても過言ではありません。 こうした、ごく一般のサラリーマン層にとっては、区役所といえば、土日休日に転入届も出せないようなところだとか、民間と比べて窓口の職員がずいぶん暇そうにしているとか、このようなイメージが先行しており、残念ながら、役所に対する見方は極めて悪いものがあります。しかし、これはビジョンにも謳われていることですが、区は、こうした区民とも責任を分かち、協働を進めていかなければならないのです。 こうした一般サラリーマンの多くは、区内の組織・団体にあまり深く関与していないのが普通です。また、対話集会(区民フォーラム、区長と話す会など)に参加したり、区にお願いごとをしたり、区議会に陳情をもってくるというような発想のない方が、そのほとんどです。その多くは政治や行政に意見を言ってもムダだとすら思うようになっており、その結果、こうした方々の声は、ますます「声なき声」と化していっています。しかし、こうした方々も立派な区民であり、なにも区内の特定組織の代表者ばかりが区民ではないはずです。 また、最近、とみに女性の参加枠を保障し、最低三割は女性とすべきという潮流がありますが、それいうならば、若年世代や中堅サラリーマンにも積極的に枠を保障していかなければ片落ちというものです。できれば、今後、同様の作業を進める場合は、組織・団体の代表者を委員に委嘱するのと同じような形で、中堅どころのサラリーマンや若年世代などにも、積極的に枠を設け、委員として委嘱していくべきだと考えています。 たとえば、区内には、アメリカン・エキスプレスやヒューレット・パッカードといった企業の拠点があります。聴けば、アメックスには地域貢献を行う部門があり、積極的に地域活動をしているそうです。こうしたところで働く若年中堅層に地域貢献の一環として参加を依頼することも、一案だと思います。今後、公募という形をとらないで委員を委嘱する場合でも、こうした点に配慮し、より幅広い層の方々に委員をお願いしていくよう、議会でも要望したところです(もっとも、公募枠こそ、もっと拡大していくべきだと思いますが)。 |
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■「21世紀ビジョン」 今後の課題は? | ||||||||||||||
さて、提出されたビジョンは、区長ご自身の思考と若干ニュアンスの異なる部分もあるというお話でした。その是非はさまざま議論があると思いますが、区民の最大公約数を反映したビジョンによって、区長の政策形成に一定の条件を設けていくということは必要なことだと思いますし、地方自治法第2条5項も、こうした意味で自治体が基本構想を定める責務を規定しているのだと思います。 私自身も、ビジョンの打ち出し方やその文言など、細かく言えば、決して満足しているわけではないのですが、少なからぬ区民の方が参加し、熱心に審議された成果であることは、素直に尊重しなければならないと考えてきました。実際に、とりあえず向こう数年に限っていえば、このビジョンで動いていくことに異論はありませんし、区を取り巻く環境や状況が変わったときには、また新たな基本構想を打ち出せばよいという考えもあり、今回提出された21世紀ビジョンには賛成しました。 議会審議の中では、今回の「21世紀ビジョン」は、ひとつの最大公約数を示したものだという説明が、区長自身の口からも示されました。ただ、実際に改革を進める際には、最大公約数に沿うような形で改革を進めることには限界があるようにも思います。 ところで、英語でvisionといえば、「将来像」や「見通し」「展望」といった意味もありますが、同じくvisionには、「幻」や「幻想」といった意味もあります。この「杉並区21世紀ビジョン」に書かれた内容が、ただの「幻」と消えてしまわなければよいのですが・・・現に過去に策定された基本構想について、「これまでの取り組みが必ずしも実を結んでいるとは言えない状況」にあると、区は自ら指摘しています。今回のビジョンも、内容が曖昧になっているだけに、課題が残されているといえます。その2で、引き続き、話を進めていきましょう。 その2へ (杉並区21世紀ビジョンを考える・その2) 21世紀ビジョン 残された課題は? |
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