杉並区議会議員(無所属) 堀部やすし最前線 No.45


「杉並病」 まだ疑問は解決していない! 
都調査委の報告に異議あり

 
 問題発生から4年。長らく、原因不明とされてきた「杉並病」でしたが、ここにきて、東京都の「杉並中継所周辺環境問題調査委員会」(都の調査委員会)の調査結果が公表され、東京都は、その責任の一端を認める記者会見を行っています。3月31日のことでした。この4月1日から、これまで東京都の仕事であった清掃事業が杉並区に移管されましたが、その前日になって、東京都はやっとその責任の一端を認めたわけです。

 ただし、今回の都の調査委員会の報告は、いちおう部分的に都の過失(過去の汚水処理のミス)を認める内容でしたが、その一方で、巧みに現在の杉並中継所には問題がないことを訴える内容でもありました。報告が本当にその通りなのであれば、本当に結構なことだと思いますが、過去の経緯からみて、これで疑念が晴れたとは、到底思えないのが実感です(汚水だけではなく、排気にこそ主たる原因があるはずです)。以下、問題点を探っていきましょう。


なぜ、正式発表が3月31日だったのか?

 今回の報告の問題点を指摘する前に、これはきちんと確認しておかなければなりませんが、今回の調査委員会の報告は、なにも新しいデータに基づいて、新事実がわかったわけではない(汚水処理にしても、とっくの昔に下水道局から指導がはいっていた)のです。過去のさまざまな調査を再検討・再検証することで出た結果なのです。その意味では、なぜ、今回の結論をもっと早く出すことができなかったのか、大いに疑問が残っています。しかも、3月31日という区への移管ギリギリの時点でなければ、こうした結論を出すことができなかったのは、いったい、なぜなのでしょうか? 

 過去にさまざまな調査をしておきながら、それらを今まできちんと把握してこなかった・・・本来、非常に優秀なお役人集団が、意図もなく、そのような単純なミスを犯すなど、考えにくいことです。排水(汚水処理)に原因の一端があったことは(もちろん、このほか排気にも問題があることも!)、とっくの昔に、わかっていたことなのではないでしょうか? ただ、都の管理下にあるうちは、事実関係の発表を差し控えたかった・・・こうは考えられないでしょうか?(なお、この4月1日から、正式に清掃事業も区の仕事となり、杉並中継所も杉並区の管理下に置かれることになりました)。そうでなければ、あまりにも不自然な話なのです。

 そう考えれば、これまでの東京都の不思議な行為のすべてに説明がついてしまうのです(過去のデータを隠したり、証拠隠滅行為をしたり、民間サイドが求める立入調査を一切拒否したり・・・詳しくは後述します)。そこで、次に、調査報告の内容上の問題点を見ていきましょう。


今回の報告書によると・・・
 報告は、問題を過去のものとしたいという姿勢がありありとなっています。問題点を指摘する前に、今回の調査結果の概要は、以下の通りです。

▲都の調査委員会の調査結果要旨
 これまでは、原因不明としてきたが、今回初めて、杉並中継所の操業当初には問題があったことを認めた。しかし、現在は、対策がなされ、新たな問題発生は起きていないと考えられると結論づけた。

▲都の考える杉並病の原因
@開設当時の汚水処理に問題があった(未処理の排水が垂れ流されていた。汚水に含まれた硫化水素が、住宅内の配管や道路上の雨水ますから排出されたと判断)
Aさらに、公園の添え木に含まれていた防腐剤にも問題があった可能性(その成分が揮発していた可能性)

▲現在、都はどう判断しているか?
@平成9年4月以降、排水処理を行った上で下水道に放流
A現在、公園の添え木に含まれている防腐剤の含有量は、当初の1/1000に減少
よって、これらの原因による健康不調の新たな発生は起きていないと考えられる・・と結論。

▲杉並区の見解
報告は解決に向けて新たな一歩を踏み出したものと評価


 堀部やすしとしては、調査委員会の報告も一理あると思っていますが、現時点で杉並中継所が安全だとは言い切れないと思っています。これまでの経緯からみて、報告内容には疑問点も多く、以下、その理由を5点に分けて説明していきます。


堀部の疑問@  証拠隠滅? 東京都の過去のデータの取り扱い

 都の調査委員会の結論は、少し早計で問題はまだ残っています。すでに、杉並中継所環境調査(これまで都が行ってきた調査)では、無いことがわかっている物質の濃度をくり返し測っているのに、濃度を測っていない有害物質がさまざま存在するなど、問題が指摘されてきたところです。調査対象や手法に疑問がなかったのか、改めて冷静に考えなければならなかったはずです。

 しかも、その調査結果の取り扱いについても、問題がありました。これまで報告してきたとおり、東京都は、調査委託先から測定された生データを受け取ることなく調査代金を支払っていたため、測定された生データが東京都にきちんと保管されておらず、私が再三再四、データを請求しても、基本的な情報すら公開されないといった問題が発生してきました(中には、なんと保存義務があるにもかかわらず、勝手に破棄してしまっていたデータもありました)。

 調査結果の妥当性・正当性を議論するには、測定された生データを再検証するという作業が不可欠です。調査を行政まかせにせず、民間で再検証しようにも、データが存在していないがために、再検証すらできない状態になっているというのは、あまりにもヘンな話です。都合の悪いデータは、捨てる・隠すということでしょうか? これでは過去に証拠隠滅をしていたととられても仕方がない話です。


堀部の疑問A  立入調査をいっさい認めなかったのは、なぜ?

 東京都の姿勢には、まだ疑問があります。行政の行う調査には一抹の疑問が残ったため、民間でも独自に調査したいと申し出た例があります。ところが、東京都に対し、杉並中継所でのデータの採取や簡単な立入調査を求めても、それらがすべて拒否されてきたのは紛れもない事実なのです。東京都が主張するように、本当に安全な施設だというのならば、堂々と調査協力できるはずなのですが、非協力な態度は一切変わらず、今日に至っています(なお、その後の変化は後述)。

 なお、かの「水俣病」の際も、熊本大学医学部が、初期段階で汚染源をチッソと疑っていたものの、工場側が立入調査やデータ採取を一切認めなかったため、原因究明が延々と進まず、被害が深刻になってしまいました。同じ過ちを犯しているように思えてなりません。

堀部の疑問B  そもそも、過去の調査結果は、妥当なものだったのか?

 さらに、過去の東京都の実施した環境調査についても、後述する在野の研究者らによって、濃度を測っていない有害物質が種々存在することが指摘されています。検出物質のうち名称を特定できなかったものについて、分析解読作業を中途半端に打ち切っていることなどについても、識者から批判されています。これまでの情報隠し体質からみても、これもアヤシイところだらけというわけです。

 また、杉並区が行った健康被害に関する調査についても、疑問があります。杉並区が行った調査は、@平成8年7月、A平成8年11月、B平成11年5月の3回です(なんとA〜Bの間2年半は何も調査してこなかったに等しいのです。私が当選して任期が始まったのは、このBの5月ですが、本当に驚いたものです)。

  ちなみに、これらの調査どれもが、中継所に近いほど健康不調を訴える方が多かったという結果が出ています。しかし、杉並区は、A〜Bの間2年半も何も調査してこなかったにもかかわらず、Bの報告書で、ここ2年近く新たな発症は「沈静化している」と安易な結論を出してしまったのです。
 
 A〜Bの間2年半も何も調査してこなかったに等しい杉並区が出したこの結論を鵜呑みにして都の調査委員会は議論をはじめているようですが・・・このBの調査については、その疫学分析に問題があると指摘する方もいたのですが、これについても再検証されなかったようです。


堀部の疑問C 被害者聞き取り調査の対象者が、初期の発症者だけに限られていたのは、なぜ?

  こうして都の調査委員会では、「新たな発症が沈静化している」という以前に区が出した結論を深く検証しないで、むしろ、それを大前提に話を進めていったわけです。

 そのためか、調査委員会が行った聞き取り調査の対象者が、なぜか初期の発症者(平成8年4月〜8月の発症者)だけに限られていたようなのです。要するに、調査を行う前から、あたかもこの時期だけに原因があると断定しているかのような、そんな調査の仕方をしているわけです。
 ひょっとして、都の調査委員会は、最初から、初期の中継所には問題があったが、現在はもう安全である・・・という結論ありきで開かれていたのでしょうか?

 たしかに、初期には都の調査委員会が原因と指摘した汚水(硫化水素)の影響で健康不調になった方もいたことでしょう。ですから、この時期の汚水(硫化水素)や公園に散布されていた防腐剤などに原因があったことは理解できますが、それだけが原因であると断言するには、まだ調査分析作業が不足しています。当然、聞き取り調査についても、初期の発症者だけでなく、最近の発症者を含めて、対象とするべきだったのではないでしょうか?

 実際に、最近でも新たに発症している方が現実に存在している以上、初期以外の時期についても、きちんと問題点を整理していくべきです。この意味で、都の調査委員会(作業部会)で行われた聞き取り調査の対象者が、特定時期の発症者に偏っていたのは、疑問が残るのです。


堀部の疑問D  まだ検証しなければならないデータが残っている

 しかも、都の調査委員会は、過去の調査結果を検討する中で結論を出すとはいっていたわけですが、その調査対象や方法に疑問がある以上、疑問が解消されない可能性がありました。私は、当初から、この点を問題視しており、区議会の決算審議や特別委員会の場でも話題としてきたところです(なお、都の調査委員会には、区を代表して、保健衛生部長(杉並保健所長)がメンバーに参加していました)。

 公開された場で都の調査委員会が開かれたのは2回でしたが、それが終わった直後、1月の区議会(委員会)の審議で、一連の私の質問に対し、部長(保健所長)は、「都の調査委員会で検討されている資料が、すべてといわれると、必ずしもそうではない」と発言しています。過去の調査の正当性・妥当性に疑問がある中で、そこまで踏み込んだ議論が行われているわけではないことが、再確認された瞬間でした。

 私もそれでは困ると指摘したものの・・・ただ、私が個人的に都に情報公開を請求した際も、都はデータはない(捨てられている)と言ったまま、結局、一歩も話が前に進まなかったという経緯が過去にありました。そこで、私は都の調査委員会に過大な期待をすることはやめ、独自に法に基づいた監査請求を行うなど別の手段を講じることで、むしろ今後の調査活動に期待をつなげる方向をとることにしました。まだ検証しなければならないデータは残っています。測定されたすべてのデータをもう一度丹念に確認することが必要です。また、在野の研究者が求めるような調査(立入調査)も認めるべきです。


花粉症になぞらえると

 私は、毎年このシーズンに花粉症で悩まされていますが、10年以上前は、まだまだ患者も少なく、この症状を理解してくれる人は、ごく少数でした。

 「杉並病」の原因との可能性が疑われている化学物質過敏症や中毒症状の場合も、この花粉症と同じで、健康な人でも、ある日、突然患者になってしまうといわれています。花粉症も、一度発症すると、ごくわずかの花粉でも、敏感に反応するようになりますが、根本的な解決をはかるには、花粉のないところに逃げるしかありません。いわゆる杉並病といわれている健康被害の場合も、危ない化学物質のないところに逃げるしか解決手段はないように思います。

 不幸なことに、「杉並病」も、花粉症と同様、同じ空気を吸っていても、まだ症状が出ていない人には、まるで理解できない病気です。このため、「集団ヒステリー」「精神異常者」などとも言われることもあり、従来のさまざまな公害と同様、「差別されるのが怖い」「身内の結婚・就職などに影響する」といった遠慮から、被害者が積極的に被害を訴えることを控えている場合がないとも限りません(都会ですし、そんなことはないと信じたいですが、たとえば水俣でも豊島でも同じ現象がみられていますので、可能性は否定できません)。

 被害に悩まされている人は、現実に存在しています。私のところにも、健康を害されている方からの訴えが届いています。これは、負担と給付の関係でバランスをとれば、痛みを共有することができる(カネで解決できる)問題とは異なるように思います。手助けすれば救われるというより、現地の大気を変えなければ、本質的には救われないのではないかと思うばかりです。 


たしかに、行政にとっては面倒なだけの仕事だが

 過去の調査結果をもとにした上で、行政は、区役所に自ら被害を名乗り出た方(健診等に参加された方)を基準にものを考えて、「事態は沈静化し、問題は過去のものとなった」という方向づけをしたいのかもしれません。

 たしかに、杉並中継所を廃止しようとしても、それでは日々の不燃ゴミをどのように処理していくのかという難題が待ち受けています。処理費用はかさむ、各区との調整も必要、面倒な仕事が増えるばかり、でも貰える給料は同じ・・・お役人さまにとって、現状を変えることは、疲れるだけで良いことは何もないのでしょう。だから、データを破棄したり、立入調査を拒んだりしたくなる気持ちは分からないでもありません。しかし、それで本質的に解決する問題ではないのです。

 よく考えてみれば、元はといえば、ゴミを出している区民一人一人が、杉並病の加害者ともいえるわけです。それを一手に引き受けている行政にとって、今の現状を変えようとすることは、たしかに気が重いだけの話かもしれません。しかし、それを承知の上で言わせていただければ、やはり、過去の報告でも指摘させていただきましたが、我々は「水俣病」の教訓を忘れてはいけないと思うのです。

 中途半端な調査で、現在は安全と主張してしまうのは、あまりにも危険なことです。誰しも花粉症になる確率があるように、誰しも杉並病といわれる健康不調を起こす可能性は残っています。調査のために中継所を一時操業停止し、停止前後の変化を確認すべきだと考えます。これでかなりハッキリとわかることはあるのではないでしょうか? 明日は我が身だということを真剣に考えてなければならないのです。


改めて、解決に向けて

 この数ヶ月、この問題を追ってきたものの、このように、まだまだ疑問が残っている以上は、今後も、これらの疑問を解消する形で調査活動が行われる必要があると考えています。幸い、これまでの議会活動もあって、杉並区も、今後、さまざまな調査を継続することや、安全性の点検にあたって、都が過去に行った調査結果など全資料の引き継ぎを要請すること(ということは、まだ入手していないという体たらくなのですが)・・・などを表明しています。私も、今後の議会審議の過程で、ここで指摘した矛盾の解明に努め、改善を迫る予定です。


 
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