杉並区の決算で注目すべき数値は、杉並区が保有している公共施設やインフラ資産の「老朽化」の現状を示す減価償却率です。
発生主義に基づく杉並区財務書類(特別会計を含む全体)から計算すると、杉並区が保有する有形固定資産の「老朽化」比率を示す減価償却率は、建物が54%、道路などインフラまでを含めた全体でみると、62%に達しています(2018年3月末現在/以下同じ)。
有形固定資産の3分の2近くが、すでに減価償却を終えている(老朽化が進んでいる)ことになります。
杉並区は、学校や道路など数多くの施設・インフラ資産を維持していますが、それらの多くは昭和の高度成長時代に建設・整備されていることから、老朽化が進んでいるのです。
古いものを大切に使っていくことは重要であり、法定耐用年数を超えたからといって、ただちに問題が発生するわけではありません。
ただし、将来の建替えや改修への「備え」が必ずしも十分でない事実は知っておく必要があります。
杉並区が保有している有形固定資産の減価償却累計額が1,912億円である一方で、これに対応するための準備金(施設整備基金の期末残高)は、92億円に過ぎないのです。
施設などの更新・建替えに備えた「頭金」として、減価償却累計額の4%程度しか用意していない計算です。
有形固定資産 減価償却率(資産老朽化比率)
自治体の有形固定資産(全体)の減価償却が、どの程度まで進んでいるかを示す数値です。具体的には(減価償却累計額÷取得価額)×100で算出します。
50%を超えているということは、有形固定資産の半分超が、帳簿上の価値を失っていることを意味します。老朽化の状況を把握するうえで重要な数値の一つです。 |
杉並区は、現在のままなら、今後30年間に必要となる区立施設の建替え・更新費用が3,452億円になるとの試算を公表しています(建物のみの積算。新耐震基準の建物を築80年まで使用した場合)。
必要額は、年平均115億円に。過去10年間の実績値は、年平均68億円でしたので、このままなら、ほぼ倍額が必要ということになります。
ただし、これは「現在価値に基づく単純計算」です。
金利上昇リスクなどは完全に無視されており、あたかも異次元の金融緩和が永遠に続くかのような想定で算出されたものなのです。
そうでなくとも、杉並区の区債発行額は、近年増加傾向にあります。
現区長就任後8年間の区債発行額(307億円)に対して必要となる利払いの総額は、金融緩和により約24億円で済む計算ですが、もし、発行利率が正常金利水準の4%なら、償還までに約123億円の利払いが必要となるところでした。
杉並区は、あんさんぶる荻窪(まだ築浅で充実した児童館などを有していた荻窪5丁目複合施設)を築14年で手放し、旧永福南小学校(教室棟)を築29年で取り壊し、さらに、検討されている区立富士見丘中学校の改築においても、築30年程度にすぎない新館部分を含めて全て解体したうえで建て替える方針を打ち出しています。
かつて鳴り物入りで「エコスクール」と称する学校を建設したにもかかわらず、実際には、むしろ電気代が増える結果を引き起こした過去の区政を思い起こさずにはいられません。これは規模を安易に拡大させたことが原因だったのです。
なぜ、施設を再編する必要があるのか、その趣旨や目的を改めてよく問い直さなければなりません。
杉並区は、すでに「借り換え」を前提とした起債(区債発行)を行うようになっています。現在はともかくとしても、今後これまでと同じような低利で資金調達できると考えるべきではありません。
異次元の金融緩和は永遠に続けられるような政策ではないことから、後年度負担(子や孫の世代の負担)を踏まえ、大規模な投資事業は、今後より慎重にその是非を判断していく必要があります。
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2019.1
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