4)【保育】待機児童問題は終わっていない
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昨年、朝日新聞デジタルが「隠れ待機児童ワースト10」を取り上げ、杉並区が「全国ワースト5位」であることに驚かれた方も多かったのではないかと思います。 これは「実際に認可保育所に入所できなかった児童数」そのものであり、待機児童の実態を反映した数字というべきものでした。
社会の高齢化などに伴う人手不足・人材不足は、都内でも深刻化しており、就業環境の整備が強く求められているところです。 保育環境の整備は、その中でも特に手を抜くことのできない課題であり、隠れ待機児童を解消する必要に迫られています。 このような中で、2018年4月、杉並区は「待機児童ゼロを実現した」と発表しました。 さっそく「なぜ、うちの子が待機児童にカウントされていないのか?」「早く職場復帰してほしいと言われており、私も好んで育休を延長したわけではない。待機児童ではないか?」と抗議の声が届いたことは、記憶に新しいところです。 これは、例えば、次のようなケースで、待機児童としてカウントされていないことが原因です。
実現した待機児童ゼロとは、このようなケースを待機児童の数から除外することにより「実現した」と言っているに過ぎないものです。 しかし、認可保育所と認可外の保育施設は同じではありません。保育環境、保育時間、保育士の数や割合、費用負担などにも差があるわけで、実際には認可保育所に入所するために待機している状態、本格的な就労に備えて待機している状態にある場合も少なくありません。 杉並区に暮らす子育て世代の生活実態や社会環境の変化などを踏まえるとき、実態を正確に表していない数字であることには注意が必要です。 これは杉並区長選挙を目前に控えて「待機児童ゼロ」を実績にしたい現区長の意向が強く反映された数字であり、残念ながら、待機児童問題は、まだ全く終わっていない課題です。 |
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消防法令違反の建物(自動火災報知設備の未設置)のまま公費運営されていた保育園 待機児童解消緊急対策により新設された某保育園は、自動火災報知設備が設置されていない建物の中で運営されていました。 防火対象物全体(建物全体)が、違反対象物となっていることから当該建物が「自動火災報知設備の未設置」状態にあることは、東京消防庁のページにも公表されていました。
「自動火災報知設備」未設置の建物の危険性 平成13年9月1日に発生した歌舞伎町ビル火災は、建築面積83㎡、延べ面積516㎡と小さなビルであったにもかかわらず、死者44人を出す大惨事となりました。 小規模な建物であるからといって、甘く見ることができないのは、この事例からも明らかで、自動火災報知設備の設置が義務化される契機となりました。 歌舞伎町ビル火災の教訓を踏まえ、違反是正の徹底、避難安全基準の強化、防火管理の徹底を三本柱とした大規模な消防法等の改正が行われ、今日では違反対象物が公表されるようにもなっています。 今回のケースは、この公表制度のおかげで把握することができたものです。もし、公表制度がなければ、この事実は発覚することはありませんでした。 杉並区内においても、平成21年11月22日、高円寺で同様の小規模ビル火災が発生しており、死者4人、傷者12人を出しています。 消防庁によれば、この惨事は「自動火災報知設備の配線の断線が報告され、消防署により改修指導されていたが十分ではなく、本件火災時まで不良個所は改修されていなかった」とのことでした。 保育施設が入っている建物において、自動火災報知設備の未設置は、到底放置できる課題ではありませんでした。 なぜ、このような建物に保育園の設置を認めたのか この「自動火災報知設備」未設置の建物に開設されていた保育園の現状について、杉並区は「誠に遺憾」と述べるとともに、区として対応状況を確認していなかったと釈明していました。 しかし、当該保育園の開設・運営には、公費が投入されています。 区の委託費によって運営されている保育園であり、その保育の実施義務が区にあることは言うまでもありません。 消防法令違反であることは当初から明白であって、保育施設の設置により、当該建物に自動火災報知設備の設置が不可欠となることは、当然に把握されていたはずなのです。 未設置を把握しながら、何ら対応を図ることなく保育施設の設置を認めたとなると、杉並区が違法行為を後押ししたことになるわけですが、この点は曖昧にされています。 おそらく2018年6月の杉並区長選挙を見据えて「待機児童ゼロ」の実現を最優先にしたいとの強い意向があったのでしょう。
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認可外の保育施設は、国から補助が出ないのが原則 杉並区の保育政策で解決しなければならない課題は、認可外施設(地方単独事業)の利用者が、他区に比べて突出して多い現状です。 これは、杉並区と人口規模が同じ自治体との間で比較してみると、一目瞭然となっていたことです。
各自治体のデータが明らかになっている2017年度の実績値で比較すると、認可外施設(地方単独事業)の利用者数は、板橋区が86人に過ぎなかったのに対し、杉並区は1,528人と、なんと2ケタも多い異常な数字が出ていたことがわかります。 ここで重要なことは、認可外施設(地方単独事業)のままでは、国などから運営補助を受けることができない点です。 区の保育経費支出が大きくなっているのは確かなのですが、それは国などから財政支援を受けられないタイプの「認可外施設」で大勢の子を受け入れていることと無関係の話ではありません。 国庫補助が受けられない分を補うために、区負担(区民負担)が、他区に比べて大きくなっているといえるのです。 これは、認可への転換を進めることで、解決を図っていかなければなりません。 今日においては小規模保育事業(小規模認可園)も制度化されており、ニーズに合うように段階的に認可園に移行させていくことが必要というべきです。 認可保育所であれば、その整備においても、運営においても、国庫補助を受けることができるわけですが、地方単独事業(認可外施設)の場合は、国庫補助を原則受けることができないために、区民負担にそれだけ重く跳ね返ってくるのです。 |
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これからは「本質的な成果」を基礎にした政策評価が必要 地方単独事業の認可外施設で子どもを受け入れるということは、「子ども・子育て支援法の対象外(支援対象外)の施設で、子どもを受け入れる」ということです。 これは、自治体経営の観点からみても、とても不合理な結果を発生させています。 地方単独事業の認可外施設での受け入れは、子ども・子育て支援法に基づいて国庫補助を受けることができないばかりに、区の負担(区民負担)が、それだけ大きくなっているのです。 誤解があるようなのですが、ニーズにあった「認可保育所」の整備は、持続可能な自治体経営を実現する点からも望ましいことです。 「財政負担になるから認可保育所を整備しない」のは誤りであり、むしろ「区や区民の財政負担を軽減しながら待機児童を減らすためにも“認可保育所”の整備が必要」であることを踏まえて課題解決を図っていく必要があります。 おかげさまで、かつて杉並区で5割台だった認可保育所の入所内定率は、ようやく7割に到達しました。 しかしながら、依然として、25%以上の児童が、認可園に入所できていないのです。杉並区には、国庫補助の出ない地方単独事業(認可外施設)の利用者がまだまだ少なくありません。 過去においては、認可外施設の利用者(保護者)に、区独自の利用補助を支給することなどにより「表向きの待機児童数」を減らすことを優先させていました。しかし、現在の法制度の下においては、もはや妥当ではありません。往年に比べ、保育所入所希望者の割合が伸びていることを踏まえた対応が必要です。 国庫補助を受けることができる認可保育所を整備することによって、区の負担(区民負担)の軽減を図ることは、いまや不可欠の経営感覚というべきです。 また、区立公園を潰さなければ保育所整備ができないほど追い込まれていた杉並区が(保育緊急事態を宣言していた杉並区が)、実際には園庭のある認可保育所の整備よりも、ビーチコート/国際規格ビーチバレーコートの常設化を優先させるといった首尾一貫しない姿勢も、今後は改めていかなければなりません。 これからの政策実現は、エビデンス(根拠)に基づいてアウトカム(本質的な成果)を重視することが必要です。 杉並区においても、カラクリのある「待機児童ゼロ」ではなく、本質的な成果に基づいて政策評価を行うようにしなければなりません。 |
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