【笹子トンネル崩落事故を他山の石に】
「現金主義」のお役所会計では、建替え、大規模修繕、事故が発生し初めて「危機」に気づく、といったことが現実に起こり得ます。「朽ちるインフラ」「朽ちる施設」が現実化しつつある中、官公庁においても「減価償却」を踏まえた対応が不可欠です。
しかし、杉並区の「施設整備基金」は、どんどん減少しています。公会計制度改革は進みましたが、その現実は「制度」の改革で止まったままです。(2012年12月追記) |
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東京都議会議長(民主党団長)であった田中良氏が杉並区長となり、杉並区政の転換が続いている。
前区長時代に定めた杉並区基本構想21世紀ビジョンは廃止され、新たに田中カラーを強く反映した基本構想(10年ビジョン)や総合計画(10年プラン)が定められた。また、前区長が創設した減税基金も廃止となった。
◆「減税基金」を廃止するも「災害対策基金」の復活ならず
ここで思い出してほしいのは、減税基金が「災害対策基金25億円」を廃止し創設した基金だった、ということである。
減税基金の設置目的には、大規模災害への備えという災害対策が明記されていた。
災害への備えを目的とする基金を二重に持つ必要はないとの理由から、旧来の災害対策基金は、減税基金の創設とともに整理統合されていたわけである。
だが、減税基金を廃止するのであれば、過去に存在していた災害対策基金を復活させるのが筋である。
首都直下地震は、いずれ杉並区を必ず襲う。昨今ではゲリラ豪雨など都市型水害も多発している。減税基金の積立残高(約10億円)をそのまま使って、災害対策基金を復活させる必要があったというべきだ。
ところが、災害対策基金は復活しなかった。その一方で、区債発行が増えている。
◆10年後に築50年超となる区立校は約50校
杉並区は、もう一つ大きな課題を抱えている。区立校66校のうち約50校が、10年後に築50年超となるのだ。
高度成長時代に建設した施設の老朽化は確実に進行している。しかも、老朽期を目前に控えながら、施設整備基金が激減している。杉並区が置かれた状況は厳しい。
こうした問題について、区長や財政担当者は「今後の災害対策や施設整備基金の残高不足については、財政調整基金で対応していく」と説明している。
だが、この説明は、これまでの財政運営を見ている限り、説得力がない。
財政調整基金は、経常経費の不足にあわせて自由に全額を取り崩すことができる基金である。施設整備基金や災害対策基金のような「特定目的基金」とは、そもそも性質が異なる。
たとえば、財政難の北区は、平成24年度当初予算において、財政調整基金をすべて取り崩し、残高がゼロになった。財政調整基金は、いわば普通預金のようなもので、経常経費に不足があれば、すぐに消えてしまうのである。
杉並区財政調整基金条例6条においても全額を自由に取り崩すことを許容する規定が残っており、現在の条例のままでは特定目的の備えと考えることはできない。条例改正が必要だ。
このままでは将来の施設整備や災害対応に支障が発生しかねない。せめて財政調整基金条例6条を改正し、最低限の財政規律を保持していくことが必要である。 |
◆「施設整備基金」とは |
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区施設の改築・改修・修繕などに必要な資金を用意するための基金(特定目的基金)。老朽化した施設の修繕費用などに使われるとともに、建設・改築の際は、この基金から「頭金」を出しています。 |
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