杉並区議会で、新たに区の職員住宅を建設する議案が可決している(平成19年度/2007年度)。場所はJR高円寺駅の駅前である。
議案は、駅前にある高円寺南保育園などの建て替えにあたり、その5〜6階部分を防災宿舎にするという形で提案されてきた。
表向きには「防災宿舎」と名付けてはいる。だが、これはプロの消防士等が住む宿舎ではない。一般の公務員が住むのである。
実態としては、単なる「職員住宅」を新設するものに過ぎないのである。
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しかし、「職員住宅」を駅前の一等地に設置すべき必然性はあるのだろうか。
現在、杉並区における特養老人ホームの待機者数は約1700名、そのうち緊急度の高いAランクの待機者は約700名である。
また、平成20年4月1日における保育園の待機児数は約90名となる見込である(平成19年度末現在)。この数は昨年同期の約7倍だ。東京23区内における少子・高齢化対応は困難を極めている。
このような中、駅前の一等地に優先整備すべき施設として「職員住宅」が最適かといえば疑問であり、今回の決定は残念でならない。今後、JR高円寺駅前において、新たにまとまった区有スペースを確保することは容易ではないのだから。
杉並区内の民間住宅ストックは既に過剰傾向
杉並区は、昨今、区内の民間住宅ストックが過剰となっていることを認めている。実際のところ、長く空室状態にある物件も見られる。
このことは、住居の確保については、(1)民間住宅の借り上げや(2)家賃補助といった形での対応が可能な状態にあることを意味する。
空室に困っているケースも耳にする中、わざわざ区が職員住宅を自前で建設する必要はないはずなのである。公務員住宅や官舎の存在が強く問題視されている昨今、本当に「痛い」判断をしてしまったように思う。
当該施設にプロの消防官が住むことはない
杉並区では、今回の施設の5〜6階部分を「防災宿舎」などと名付けている。
しかし、いかなる法律を確認しても「防災宿舎」なる規定は、どこにも存在していない。「防災宿舎」と名付けてみても、法律的には区職員用の厚生施設(公務員住宅)そのものである。
もちろん、専門職である消防士等が住むわけでもない。東京23区においては、消防は東京都の仕事である(東京都消防庁)。
防災を名目にし、災害時における区の初動配備職員を住まわせるという体裁にすれば、駅前一等地に職員住宅を建設しても、理解が得られると思ったのかもしれない。だが、その実態はお寒い限りなのである。
防災宿舎の第一号は、過去 水害時の役に立たず
実は、杉並区には、過去に「防災宿舎」という名目で職員住宅を建設しながら、水害発生時に当該職員を適切に参集させることができなかった「事件」を発生させたことがある。
ハコモノ建設以上に大切なことがあることを忘れてはならない。職員住宅を自前で建設すれば、初動配備職員を迅速に参集させられる・・・という説明が、必ずしも正確でなかったことは、この例が証明している。
災害時における初動配備職員は、携帯電話等で円滑に連絡できる手段を確保することが最重要であり、そのうえで、迅速に参集できる場所に住んでもらうべきだろう。
しかし、それは(1)周辺民間住宅の借上げや、(2)初期配備職員への家賃補助という形で対応できることである。また、地域密着で訓練され、地域密着で活躍されている消防団員(民間人)への支援を強化することが検討されてもよいはずだ。
杉並区内のいずれかの場所に職員住宅が必要であるとしても、なにも駅の真ん前に住んでもらう必要はないはずなのだ。
区民住宅は借上げで対応中 職員住宅も直営に拘るべきでない
なお、いわゆる区民住宅(中間層向け住宅)や緊急用の住宅などについては、これまで借上げによって、住宅提供されてきたことを忘れてはならない。
そうであるにもかかわらず、職員向け住宅だけは、どうしても自前で建設するというのである。理解に苦しむことだ。
貴重な駅前に必要な公共施設は何か
今回の改築は、老朽化した既存の保育園とゆうゆう館(敬老会館)の建て替えが目的となるものであった。
ところが、いつしか防災宿舎という名目で、職員住宅の併設が提案され、約3分の1のスペースが職員住宅となってしまった。
貴重な駅前施設の中で、最優先させるべき事項は、保育介護需要等への対応強化であると考え、職員住宅の併設は改めるよう、予算審議段階から主張していたのであるが、ついに可決となってしまった。無念である。
だが、決定した以上、施設は有効に活用せざるを得ない。この施設に住む初動配備職員には、今回の投資に見合うだけの働きをしてもらわなければならないと思う。有効に活用されるよう注視していきたい。
なお、入居する職員の家賃は、現時点では未定である。 |