杉並区議会議員(無所属)堀部やすし最前線
対案なき「多選自粛条例」の廃止は問題である(5)
平成23年(2011年)1月


 【疑問3】 なぜ当選直後に廃止する必要があったのか

 今回、最も多くの方々から寄せられた疑問は「区長に就任したばかりの段階で、なぜ条例を廃止する必要があるのか?」との素朴な疑問であった。
 これに対し、田中区長は、「現在の条例をいったん廃止し、ゼロベースで議論を行うことが必要である」と述べ、とにかく早く廃止したい旨の主張を繰り返した。
 しかし、廃止しなければゼロベースで議論できない、などという理屈は論理が飛躍している。
 条例が向こう10年間残ったとしても、困る人は誰もいない。いまの条例をそのまま残したところで、財政支出もゼロである。焦って廃止する必要は全くないのである。

●急いで廃止する理由は何か

 とにかく廃止することが先で、必要な議論は後でやりましょう(とりあえず早く廃止させてくれ)との主張は、およそ同意することのできない理屈である。
 また、区長は、「仮に、2期目3期目の立候補の時に、この提案を行うとしたら、多選を目的にしたとみなされ、その結果、冷静な議論ができなくなる」とも述べ、早期の廃止が重要であるとも主張したが、これについても、全く同意することができない。
 現職区長が2期3期と実績を重ね、その間に、より良き区政が行われるようになれば、自ずとファンは増えていくのであって、区民はむしろ温かい気持ちで応援してくれるようになるはずなのである。
 たとえば、石原慎太郎東京都知事は、現在3期目の終盤にあるが、報道によれば、都議会自民党などから、4回目の立候補を待望する意見が出ている。初当選時、知事と自民党は対立していたが、今ではすっかり様変わりしているのである。
 また、山田宏前区長についても、区長として実績を積む中で、対立していた自民党などが次第に軟化するようになり、2期以降は応援する側に変化していった事実がある。
 それが良いことかどうかは別なのだが、このような前例が数多く存在していることは疑いのない事実である。区長として、よき区政を行い、実績を重ねていけば、自ずと条例の廃止を支持する区民は増えていくはずなのだ。
 なぜ、それまで待てないのか。下手に焦って条例を強引に廃止しようとすれば、それこそ区民の信頼を失うだけなのである。

●今は目の前の職務に精励すべき時

 たしかに、現職区長が4期目を目指したいと考えた際、この条例が心理的に目障りとなるのは事実かもしれない。
 しかし、今は目の前の職務に精励し、区民から支持してもらえるよう努力すべき段階ではないのか。当選したばかりで、ほとんど実績を上げていない者が、唐突に廃止を打ち出すこと自体に、強い疑問を感じるのは私だけではあるまい。
 廃止は、多くの区民が、「あと一回、区長をやってほしい」とお願いされるような状態になった時に決定すればよいことだろう。なぜ、焦る必要があるのか。
 要するに、田中区長は、2期3期と続けても、そのような形での支持は増えない、自分にはその自信も能力もないと自覚しているからこそ、「その時が来るのを待てなかった」ということなのではないだろうか。

●区長が廃止を急いだ「真意」

 田中良氏は、かつて民主党公認で参院選に立候補する予定があった。
 その当時、田中良氏は、参議院改革に関する著書を出版している。(『破綻寸前!東京の“道路公団”〜道州国家の参議院改革論』)。
 しかし、この時(平成16年)、民主党は、最終的に田中良氏ではなく、蓮舫氏を公認した。東京都選挙区2人目の候補者は、女性候補が望ましいとの判断があったようである。
その後、衆院選への誘いは何度かあったようである。しかし、杉並区は、石原伸晃代議士が強い選挙区であったため、踏ん切りがつかなかったようだ。ついに今日まで衆院選に再挑戦することはなかった。
 このような中で、田中良氏は、都議会議長就任1年未満の段階であったにもかかわらず、「杉並区に骨を埋める覚悟」との説明で区長選への立候補を表明したのである。
 本人は「多選狙いの廃止ではない」と述べていたが、あまりに唐突な廃止提案、実際の廃止のタイミング、形骸化していたパブリックコメント手続、立候補の経緯等々を総合的に考えると、そのような説明を真に受けることはできなかった。
 今回の多選自粛条例の廃止は、どのように検討してみても、区長多選に向けた布石であると考えるより他ないのである。
 このように「杉並区の政権交代」は予想外の方向に走り出している。


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