杉並区議会議員(無所属)堀部やすし最前線



杉並区における地域医療体制とその課題

 杉並区は、新宿区および中野区とともに、区西部保健医療圏(二次保健医療圏)に位置している。そして、この区西部医療圏では、二次医療圏として必要にして十分な病床数が確保されている「建前」にある。

 しかし、実際には大学病院をはじめとする大規模病院が新宿区に集中していることから、「杉並区内にいい病院が少ない」「杉並区内には必要な病床が確保されていない」という手厳しい指摘を受けることがある。
  • なお、2008年4月、中野区と杉並区にまたがる警大跡地に東京警察病院が移転・開院した。詳しくは東京警察病院と杉並区

 たしかに、救命救急は1分1秒が勝負である。

 交通渋滞等を考えると、新宿区に集中している大規模病院(高度救命機能を有する病院)へのアクセスは必ずしも良いとはいえない。

 このため、救急医療・急性期医療に不安を感じる方は少なくなく、「杉並は病院過疎だ」などという言い方をされたこともあった。(さすがに、これは言い過ぎのような気もするのだが)

 本来、二次救急医療体制の整備は、都道府県の仕事となっている。

 しかし、このような批判を受けてしまうと、地元自治体としても、口惜しい気持ちにさせられてしまう。それは事実である。

 そこで、練馬区のように、某私大病院を誘致するために、70億円もの補助金を出したり、自前で土地を買い込んで当該私大病院に無償貸付をしたりと、大胆な対応をとる区も出てきている。 
  • この病院は、杉並区からほど近いところに立地しているため、杉並区民としては大助かりだが、練馬区民の立場とすれば、また別の議論ができるだろう。実際、練馬区は当該大学病院に多額の税金を投入しているが、病院利用における練馬区民への優遇対応は当然にない。(もっとも、これに対しては、23区に特有の財政調整制度を考えると、各区単位で偏狭に考えるべきではないとの意見もあることだろう。本来、大いに議論すべき点である。)

  杉並区における救命救急体制


 これに対して、杉並区では、平成16年以降、区独自の救命救急体制の構築に取り組み、大規模病院の誘致とは異なる方法によって、一定の成果をあげている。

 まず、杉並区内の二次救急医療機関の連携を強化するべく救急医療連絡協議会を設置するとともに、これらの病院をイントラネットで結び、当直・空床数などの情報を共有化した。

 また、平成17年以降は、24時間・365日体制で電話応対する「急病医療情報センター」を開設した。医師・保健師・看護師などが医療相談・健康相談・病院紹介などに応じている。

 このような先進的な24時間・365日の電話対応は、たいへん喜ばれており、杉並区では、これによって数多くの課題を効率的に解決してきたといえる。

 現在ではさらに、医療事故が相次ぎ報道される中、身近な地域に中立的立場から苦情に応ずる機関が必要という観点から、杉並区医療安全相談窓口(いわゆる医療安全支援センター)および医療安全推進協議会が立ち上がっている。

 これまた東京23区内で最も早く対応したことである。

 たしかに、杉並区内に大学病院はないが、杉並区は既存の医療資源を有効に活用することで不安を解消してきた。高齢化が進む中で課題は尽きないが、区レベルでは精一杯の対応でニーズに応えてきたといえる。


  小児救急に大きな課題


 問題は、小児救急である。

 実は、杉並区が設置した24時間・365日で対応を行う「急病医療情報センター」への問い合わせの約半数は、小児に関する問い合わせである。

 しかし、杉並区内において、24時間・365日対応の小児救急は実現していない。

 2次救急医療体制の整備は東京都の役割である。だが、小児の2次救急医療について、全区すべてに完備・提供できるほどの医療資源は確保できておらず、いまだ放置された状態が続いているわけである。


 (参考)東京都区西部医療圏(杉並区・中野区・新宿区)における小児2次救急対応医療機関
  1. 東京医科大学病院   新宿区西新宿6-7-1 03-3342-6111
  2. 慶應義塾大学病院   新宿区信濃町35 03-3353-1211
  3. 東京女子医大病院   新宿区河田町8-1 03-3353-8111
  4. 国立国際医療センター 新宿区戸山1-21−1 03-3202-7181

 この点、旧警大跡地に移転してきた東京警察病院は職域病院ではあるが、地域における貴重な医療資源となるため、この点に期待するところが大であった。残念ながら、採算性の面から小児二次救急は無理というスタンスであるが、今後に期待したい(→警察病院については東京警察病院と杉並区

  • なお、中野区では、従来、中野総合病院が小児救急体制をとっていた。しかし、現在ではこれも「小児科医の確保が困難」という理由から、撤退している(平成18年(2006年)4月以降は、夜間7時〜10時までの準夜間帯診療のみ実施)。

 杉並区内では、東京衛生病院(荻窪)と河北総合病院(阿佐谷)で、近年対応を拡大させている。

 しかし、それでも依然として人員配置等の問題から、月・水・金の深夜帯は対応不能のままである。入院その他医療行為が必要な子どもは、新宿区など二次救急医療体制のある病院へと搬送せざる得ない。深夜帯においては基本的に渋滞がないとはいえ、不安は消えないままである。

 本来は、中学生の医療費を全員一律に無料にする前に、救命救急医療体制を整備することを優先させるべきであった。しかし、選挙的には「ばら撒き」政策のほうが一般に受けがよいため、主客転倒した政策が政策が選択されてしまった(こちら)。

 これは役人のせいではなく、政治家のせいである。

 医療政策は、従来、主に都道府県の仕事という受け止めが強かった。しかし、現在では課題の重大化と関心の高まりをうけ、数年前より、杉並区議会でも、医療問題調査特別委員会が設置されるようになっている。私もここ2年連続して委員となっているが、引き続き、強い関心を持って対応していきたい。

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