杉並区議会議員(無所属)堀部やすし最前線



いま 医療を考える2008
小中学生の医療費を一律に無料化するより
優先すべきことがある
懸念していたことが現実に

 杉並区は、2007年(平成19年)4月より、小・中学生の医療費を全員一律的に、無料化した。

 参考までに、2007年4月には、杉並区長選・杉並区議選があった。

 杉並区では、乳幼児の医療費について、早くから無料を実現している。今回、その流れの中で、区はそのまま中学3年生まで完全に無料(所得制限なし)にしたわけである。金額的には年7億円の予算増となった。

 しかし、残念ながら、杉並区内においては、小児科サービスを1年間(365日24時間)完全サポートできるような体制は整っていない。夜間・小児救急が不完全のままであるばかりか、昼間の診療現場における待ち時間の長さもまた無視できない課題となっている(具体例は後述)。

 これらは、医療費をすべて一律に無料化するようなバラマキ施策を実施する前に、テコ入れをして改善を図っておくべき課題であった。年7億円の予算増は、むしろ、その改善のために使うことを優先すべきだったと確信している。


 当時この条例改正は、私を除く全議員の賛成で可決した。しかし、私は具体的な懸念を指摘のうえ「優先順位を誤った政策判断である」と主張し、反対していた。

 そして、私が抱いていた懸念は、いま、現実に深刻な問題となっている。


本当に困っている分野に集中投資すべきが筋


 誰しも医療費が無料になれば、嬉しいに決まっている。そして、有料より無料が支持されるに決まっている。

 しかし、現在、医療が抱えている課題をふまえると、医療の質を確保する手だてを講じることなく、費用だけを無料にしても、意味はないというべきだろう。

 私も、難病や解決困難なアレルギー等に対しては、無料の範囲を拡大すべきとは思う。しかし、医療現場の置かれた厳しい現状を考えるとき、今回のような「一律の無料化」が本当に正しいことなのだろうか。

 一例を挙げて考えてみよう。数多くの医療問題が放置され、抜本的な解決が求められている中、たとえば、中学生の間で公序良俗に反するような喧嘩が起こり、ケガを負ったとする。そして、これに対して、完全に無料で(税金で)面倒をみることになったとする。

 果たして、これが本当に正しい公金(税金)の使い方といえるのだろうか?

 このような対策で、現在の医療が抱えている問題が改善するとは、到底考えられない。追加負担となる公費7億円(1年あたりの追加予算額)は、他の医療・福祉問題の解決に使うべきだろう。


懸念していたことが現実に 小児科の混雑


 杉並区には、河北総合病院という地域の核となっている病院がある。

※河北総合病院 創立1928年。杉並区阿佐谷北の本院(一般315床)・分院(一般76床)のほか、杉並区堀ノ内に河北リハビリテーション病院(療養135床)、杉並区桃井に介護老人保健施設シーダ・ウォーク(112室)などを有している。理事長の河北博文氏は、東京都病院協会会長、日本医療機能評価機構理事。父・河北真太郎氏は元日本医師会副会長。
2006年、河北総合病院は、東京都内で民間初の地域医療支援病院に指定された。

 この病院で、2007年(平成19年)10月1日付けで「小児科外来の診療体制の一部変更について」という案内が出され、次いで11月1日付で「午後一般外来の変更につきまして」という説明文書が出された。

 その内容は、(1)午後の一般外来を休止するとともに、(2)通常の診療においても、トリアージを行う(診察は到着先着順ではなく、症状の重症度によって、病院側が診察順を決める)ことになった、というものであった。

-------------(以下一部引用)

 当院小児科外来では、昨年11月より、午後の一般外来を開始し診察させて頂いて参りましたが、2007年11月より、午後につきましては一般外来を休止する運びになりましたことをお知らせ致します。
 本来小児科外科外来診療は(殊に総合病院外来では)、午前中診療が原則であります。
しかし、午後の外来受診のニーズが増加しているという状況を踏まえ、昨年11月より午後一般外来を施行してまいりました。

 しかし、現状では午後診療は医師1名のみが担当できる状況であり、診療可能な患者様の人数を限定せざるを得ない状況でございます。

 また、混雑した日には、午前中に受付された患者様が、午前中の診療枠が既に飽和しているということで午後診療に回され、且つ午後に受診を希望された患者様につきましても(午後の診療枠も既に飽和しているということで)、診療不可能に陥る事態も数多くございました。

 これらの状況で最も懸念されることは、具合の悪い、あるいは元気そうに見えて実は早急に処置が必要な患者様を午後までお待たせしてしまっている可能性でございます。(以下略)


---------------(引用終/午後一般外来の変更につきまして 2007.11.1)


 私が懸念し、警鐘を鳴らしていたことが、現実化しているのである。

 行政としては、不特定・多数の医療費を無料にする前に、対応すべきことがあったはずなのだ。必要とされる医療環境の整備を優先することなく、医療費だけを無料にしても、意味がないのだ。

 もちろん、これは小児科に限った問題ではない。

 河北総合病院では、一部の病床を閉鎖している実態があるが、それは看護師不足が原因とのことである。専門職の人材確保難は、遠い地方の問題ではないのだ。都市においても「身近な地域の問題」として真剣に受け止める必要がある。

 地域医療が抱える問題を考えるとき、このように解決しなければならない課題は、数多く存在している。


まずはサービスの「質」「量」の充足を優先すべき


 現状では、難病や特効薬のないアレルギーなどにお悩みの方、あるいは重労働が指摘される産科・小児科の診療環境などに対して、重点的にケアすることを優先させるべきではないのか。これらは、いずれも対策が後手に回っている。

 また、これは医療とはジャンルが異なる問題となるが、保育サービスへの機会均等・負担の公平といった問題もまたしかりである。

 サービスの「質」「量」が充足していない現状においては、サービスを無料にする前に、サービスの質量を充足させることを優先するべきなのだ。

 今回の政策決定は、選挙前だからと、人気取りの政策に走り、より重要な問題について抜本的な解決を遅らせてしまった典型と言える(※区長選・区議選は、この条例改正の4ヶ月後のことであった)。

 費用対効果をふまえて客観的に政策を再評価し、冷静な対応を進めることが必要である。なお、詳しくは、私の議会討論(演説)をご覧いただきたい。

 議案に対する私の意見(議会における討論)はこちら


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